2022年12月31日土曜日

2022年展覧会ベスト5


今年も、マイベスト展覧会を選んでみました。例年と同じく、順位は付けず見た順に記載しています。でも敢えて1位だけ選ぶなら、千葉市美のジャポニスム展かな。千葉市美は遠くて行くのが大変なうえ、図録を購入することも多いので結構くたびれます。来年は行くことができるのでしょうか。


ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵(千葉市美術館)
浮世絵とアールヌーボーを並べるというオーソドックスな構成かと思ったら、色・構図・モチーフ・時代背景など、さまざまな角度から分析が行われ、さらにロシアのジャポニスムという新しい要素が加わるという盛りだくさんな内容。奥行きのある、というかありすぎて迷子になりそうな展覧会でした。

山本作兵衛展(東京富士美術館)
お目当ては企画展の上村三代展だったのですが、三代展の後に「ついで」のつもりで寄った常設展示室のこれがすごかった!炭坑の様子を生々しく描いた作品の数々。当時の労働環境や、その中で生き抜いた人々の姿が強く印象に残りました。ユネスコ「世界の記憶」に選ばれたのも納得です。

生誕110年 香月泰男展(練馬区立美術館)
「戦争画」というと藤田嗣治や宮本三郎など「東近美の3階」の風景が思い浮かびますが、香月の作品も、画家の戦争体験から生まれた別の「戦争画」と言えるのでしょう。重苦しい、しかし目を背けてはいけない作品が多数あります。この展覧会を鑑賞したすぐ後に、ブチャの虐殺が報じられました。

シダネルとマルタン展(SOMPO美術館)
間接的な柔らかな光の中に浮かび上がるシダネルの作品は、人物はほとんど描かれていないのに人の気配があり、郷愁のような切なさを感じさせます。マルタンの作品は光あふれる南仏の風景。初期の象徴主義的作品も良かったです。

ヴァロットン―黒と白三菱一号館美術館
モノトーンで摺られたミステリアスな世界。謎、倦怠、誘惑、犯罪といった世紀末感にあふれ、洗練された作品の数々が強い印象を残し、昨年の「あやしい絵展」に続いて近代社会の内面というものを考えさせられました。会場の設えも素晴らしかったと思います。

今年は以上です。

来年からは美術鑑賞の方法も大きく変わると思いますが、見たい展覧会はもうすでにいくつか決めてあるので、これから予定を立てたいと思います。現在あちこちで発表され始めているベスト展覧会の記事を見ているうちに、府中の諏訪敦展にも行かなきゃ!という気持ちになってきてますよ~。時間あるかな?

来年もこのブログをよろしくお願い致します。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。


日経おとなのOFF 絶対見逃せない美術展2023(日経トレンディ2023年1月号増刊)


美術の窓 2022年 12月号

2022年12月30日金曜日

10月、11月に鑑賞した展覧会


展覧会の振り返りも今年最後になりました(12月は鑑賞ゼロ)。今年のベストもこれから考えます!

ピカソとその時代(国立西洋美術館)
ベルリンにあるベルクグリューン美術館のコレクション展。コレクターであるハインツ・ベルクグリューンによる選択の個性とともに、その時代背景を関連付ける展示方式が印象に残りました。

フェルメールと17世紀オランダ絵画展(宮城県美術館)
2月に都美館で鑑賞しましたが、巡回してきたので再訪。構成が少し変わっていて面白かったです。作品が一部欠番になっていたのが残念。

ヴァロットン 黒と白(三菱一号館美術館)
この美術館でヴァロットン展を見るのは二度目。前回は油彩画が多かったのですが、今回は白黒の版画が中心。ミステリアスな感じが良かったです。会場にもいろいろ凝った仕掛けがあって楽しめました。

年明けには東京に遠征したいと思っています。お目当ては都美のエゴン・シーレと出光の若冲。


2022年12月25日日曜日

国宝シリーズ第3集@仙台中央郵便局

仙台でも「郵活」を始めました。まずは、10月に発行された国宝シリーズです。

その前の「国際文通週間」は郵頼したのですが、国宝の方は手押し・機械印ともに63円切手に押したかったので、郵便局へ行って来ました。郵頼の場合、手押しと機械印を別々に申し込まないといけないのですよね。シール切手はシート単位で申し込むので、今回の場合だと63円のシートを2枚買うことになってしまいます。それはいくら何でも無駄が多いので、郵便局で押してもらうことにしたわけです。

それで作成したのが下の2枚。

2022年12月18日日曜日

Postcrossing 再開!

しばらくお休みしていたPostcrossing(略称ポスクロ)を再開することにしました。

ポスクロとは、世界中にポストカードを送り合うシステムです。送り先の住所はランダムに割り振られ、その人にハガキを送ると、別のメンバーから自分宛てにハガキが送られてくるという仕組みになっています。詳しくはデイリーポータルの記事をご覧ください。昨年4月の記事です。

で、ですね。ちょっと気づいたことがあるのでいくつかメモ的に書いておこうと思います。

2022年12月16日金曜日

9月に鑑賞した展覧会

9月の鑑賞は4展。東京の3展は日帰り弾丸ツアーで回ってきました。宮城県美術館には初めて行きましたが、ここは良いですね!何が良いかって、カンディンスキーの《商人たちの到着》を所蔵しているのですよ。5年前に汐留の展覧会で拝見して、強く印象に残った作品です。

ポンペイ(宮城県美術館):東博で見逃して残念に思っていたので、思いがけず鑑賞できてラッキー。ポンペイという都市を内側と外側から眺めて全体像を組み立てるような構成。「災害考古学」という分野にも興味を持ちました。

ボストン美術館展 芸術×力(東京都美術館):2年前にコロナ禍で中止になり、がっかりしていましたが、まさかの復活!権力者と宗教の関係や、英国王戴冠式の一場面など、2年前だったら違う印象だったろうな~と思う所がいろいろありました。

美をつくし - 大阪市立美術館コレクション(サントリー美術館):改修工事で長期休館中の巡回展。仏教美術や江戸絵画などオーソドックスなラインナップの後に根付のコレクションがあり、これがとても可愛いですね。美術館に収蔵される前の個人コレクションとしての来歴にも興味を持ちました。

ゲルハルト・リヒター展(東京国立近代美術館):初公開の《ビルケナウ》が話題の展覧会。リヒターが何を表現したかったのか、まだちょっと消化しきれていない所がありますが、まずは見て良かったと思います。


2022年12月12日月曜日

6月、7月に鑑賞した展覧会

 

展覧会の振り返りも5月で止まっていました。2ヶ月分まとめて振り返ります。6月と7月は「ぐるっとパス消化月間」みたいになりました。3館がぐるぱ入場、サントリーは年パスなので1枚もチケットを買っていません。

建物公開2022 アール・デコの貴重書(東京都庭園美術館)
年に一度の建物公開。インテリアと展示品の本が作り出す展示空間が素敵でした。

光陰礼讃 - モネからはじまる住友洋画コレクション(泉屋博古館 東京)
リニューアル後の初訪問。今までは日本画の展覧会しか拝見していませんでしたが、洋画のコレクションもこんなにあるのですね。

芭蕉布-人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事-大倉集古館
久しぶりの訪問。泉屋博古から歩いてすぐの場所にあります。芭蕉布というものの存在を初めて知りました。鑑賞してから3ヶ月ほど経って、平良敏子さんが亡くなられたという報道に接しました。

歌枕 あなたの知らない心の風景(サントリー美術館)
「歌枕」とは、古来から多数の歌に読み込まれ、共通のイメージを醸成してきた地名のこと。それは和歌という媒体を超えて絵画や工芸品にも広く浸透してきました。

8月は多忙につき鑑賞なし。次回は9月の鑑賞を振り返ります。

2022年12月6日火曜日

引っ越しました


久しぶりの投稿になります。実は夏の終わりに東京を離れ、杜の都・仙台に引っ越してきました。

それまで住んでいたのは東京都の多摩地域にある東大和市という所で、今年の6月にはこんなポスターが話題になりました。

ポスターのテーマは、市の面積の4分の1を占める「多摩湖」。多摩湖の面積の99%は東大和市だが、市民でも多摩湖は東村山市にあると思っている人が多いという。(上掲記事本文より)

多摩湖の取水塔は造形が美しく、市の象徴として住民票にも市報にも風景印にもこのデザインが使われています。なので、東大和市に住んでいると「多摩湖=東大和市」は当然かと思っていたら、そうでもないみたい。そういえば、マンホールの蓋のデザインでは、東村山市の方でこの取水塔を多く見かけた気がします。などと言いつつ私は東大和市に来るまで多摩湖自体を知りませんでしたけどw

私のWebサイト本館のタイトルが Lakeside Hermitage なのは、住んでいる市内に多摩湖があることに因んでいます。ということは、引っ越したらサイト名も変えるべきなのかもしれませんが、面倒なので変えません。仙台市内にも湖のひとつくらいどこかにあるでしょう(←いい加減)。

さて仙台。東京と比べると空間の密度が低いというか、ゆとりがあるように感じます。秋は紅葉が美しく、街の佇まいは気に入りました。よく行っていたお店も(鳥貴族以外は)あるし、便利ですよね。これで美術館がもう少し多ければ言うことなしです。

2022年6月7日火曜日

5月に鑑賞した展覧会


5月に鑑賞した展覧会を振り返ります。今月は北斎以外全部洋画!その北斎も大英博物館の作品が中心という欧米強化月間になりました(ボテロが南米)。

大英博物館 北斎(サントリー美術館)
大英博物館所蔵の作品を中心に、北斎の作品とコレクターや研究家の活動を紹介する展覧会。「富嶽三十六景」シリーズ内での色の使い方の解説が面白かったですね。「百人一首うばがゑとき」では貴重な版下絵も見られました。シリーズは途中で打ち切りになりましたが、そのため未制作の下絵が残ったのは後世から見ると幸運でもありますね。

スコットランド国立美術館 THE GREATS(東京都美術館)
ルネサンスから近代まで、美術史の時系列に沿った大きな構造の中で、英国(スコットランド)の美術や文化を見るという感じでした。お目当てはベラスケスでしたが、個人的に印象に残ったのはフランシス・グラントが自分の娘を描いた肖像でした。

ボテロ展 ふくよかな魔法(Bunkamuraザ・ミュージアム)
内覧会参加。ブログ記事を書きました。

ピカソ ―ひらめきの原点―(パナソニック汐留美術館)
初期から晩年までの版画作品が中心。版画好きには素晴らしい内容ですが、作品数が多いのでパーティションの区切りと動線がかなり複雑に感じられました。会場外の解説ビデオに「この当時ピカソの心は妻と愛人の間で疲れ果てており」というようなナレーションがありましたが「自業自得だろ」と思ったのは私だけではないと思います。さんざん浮気しておいてそれはないわー。

シダネルとマルタン展(SOMPO美術館)
この美術館を初めて訪問したのは、ちょうど10年前の「アンリ・ル・シダネル展」でした。やわらかな間接光の表現と抒情的な情景表現が素敵。アンリ・マルタンは今回初めて拝見するかも。色鮮やかな美しい庭園風景も良いですが、初期の象徴主義作品も印象に残りました。


『大英博物館所蔵 未発表版下絵 葛飾北斎 万物絵本大全』


2022年6月4日土曜日

YouTubeチャンネル「ポリタスTV」のアーカイブ一覧を作りました

唐突ですが、私が最近よく見ているYouTubeチャンネル「ポリタスTV」のアーカイブ一覧を作成しました。右のサイドメニュー(スマホの場合はタイトル下のプルダウンメニュー)にリンクがありますので興味のある方はご利用ください。

念のためこの下にもリンクしておいた方がよいかな。

 ◆ ポリタスTVアーカイブリスト

「ポリタスTV」とはジャーナリストの津田大介さんが主宰するチャンネルで、政治・社会・文化・ITなどさまざまなトピックを取り上げて解説されています。基本的に平日午後7時から配信されているので、開設からまだ2年なのにもう500本を超える動画が溜まっていて、見たいテーマの動画がなかなか探せないので、自分用にリストを作成しちゃいました。

これ公開したら喜ぶ人いるかな?許可が必要?と思っていたところ、無断で公開して良さそうだとわかったので(2周年特番でそう言われていました)思い切って公開します。すでに作成している方も何人かいらっしゃるみたい。やっぱりアーカイブ探しにくいって皆思ってるよね!私だけのはずないって思ってたw

こういうのは個人でやっているとさまざまな理由で続けられなくなる時がくるものなので、複数あると良いですね。

個人的に、有料会員になったきっかけはFacebookの内部告発問題について知りたいと思ったことなのです。昨年から時々ニュースとして見かけて気になっていたのですが、詳しい報道をあまり見かけなかったので……。元社員から内部告発があったのが昨年の9~10月ごろだったで、時期が良くなかったのかもしれません。日本ではその頃自民党の総裁選、その後に総選挙がありましたからね。ご参考まで、その動画はこちらです(会員限定)。

Facebook問題、クリストファー・ワイリーの『マインドハッキング』を今読んでいるところですが、今は亡きケンブリッジ・アナリティカとともに思ったより闇が深そうな気がしています。


『マインドハッキング: あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』

2022年6月2日木曜日

特殊切手「美術の世界シリーズ 第4集」

8月3日発売の特殊切手「美術の世界シリーズ 第4集」のデザインが発表されました。

 ◆ 美術の世界シリーズ 第4集

予想どおり今回は黄色+金色ですね!ゴッホとクリムトが入ってる~~!日本画の方は予想が外れましたが、なるほど納得の選択です。そうかそうか其一の向日葵もありましたね。

ただしマキシマムカードの作成は未定です。印のデザインが蒔絵硯箱(根津美術館)のシカと古九谷(石川県立美術館)の牡丹なので、ポストカードの入手が微妙。根津の方はそのうちショップに行ってみようと思いますが、石川県の方は……。

実はこのシリーズ、マキシマムカードを作成できたことが一度もありません。

第1集(青)は2020年3月。COVID-19が世界的に広がり始めた頃で、美術館・博物館は軒並み休館、ポスカどころではないという時期でした。この切手も気がついたら発売日を過ぎていたように思います。

第2集(赤)はその約半年後の2020年10月。時期は近いですが年度が変わっています。この時は緊急事態宣言も解除されていたので、東博でポスカをゲットして押印会場へ向かいました。しかし!押印会場が時短になっていて、到着した時(たしか午後4時ごろ)にはもう終了していました。この時のショックから、しばらく押印は専ら郵頼を使用することになりました。

第3集(緑)は翌2021年9月。この時は、印のデザインが壺と香炉という渋いチョイスで、東博へ行ってはみたものの同じ絵柄のポスカがなく作成は断念。

そんなこんなで、切手としては素敵なシリーズだし、マキシマムカードの作成にはもってこいなのですが、時期に恵まれないというか、まぁこれも運ですよね。切手はいずれも未使用のまま、同じ絵柄のポスカを少しずつ買い揃えながら機会を待っています。そのうち風景印や小型印でマキシマムカードを作成できるかもしれません。

そういえば以前は、展覧会に合わせた小型印というのもありましたが、最近は切手の博物館と郵政博物館ぐらいでしか見かけなくなりましたね。


2022年5月19日木曜日

「ボテロ展 ふくよかな魔法」ブロガー内覧会

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ボテロ展 ふくよかな魔法」のブロガー内覧会に参加させていただきました。主催者・運営者の皆様ありがとうございました!

正直に言うとこの「ボテロ展」、それほど興味は持っていませんでした。画風があまり好みじゃないし何だかマンガっぽいし、何より最近の渋谷は「コロナ前」の混雑が戻ってきていて不安です。

でも混雑は別として、そういう印象の展覧会ほど、行ってみて「新しい発見があった!」と思うことは多いんですよね。それにワクチンも三度目を打ったことだし……というわけで、思い切って行って来ました。今回も行って良かったです!


2022年5月7日土曜日

4月に鑑賞した展覧会

4月は何やかやと仕事が忙しくて、あまり美術鑑賞に行けませんでした。その代わりにブログの更新が増えましたね。これはスキマ時間に少しずつ書き溜めて行けるので……。来月からはもうちょっと行く機会を増やしたい。久しぶりにぐるっとパスも購入しようかなと思っています。今年からQRコードかカード式になったのですね。あの分厚い束、けっこうかさばるなぁと思っていたのでちょうど良いです。


さて、4月に鑑賞した展覧会を振り返ります。

上村松園・松篁 ―美人画と花鳥画の世界―(山種美術館)2月に鑑賞した東京富士美術館に続いてこちらも。松園と松篁以外の画家による作品も鑑賞できました。一口に美人画・花鳥画といっても、モチーフや画風は多種多様ですね。

没後50年 鏑木清方展(東京国立近代美術館)松園とともに美人画で有名な清方。このお二人は切手に採用されることも多いんですよね。今回メインビジュアルになっている《築地明石町》も切手になっていますが、昭和46年の「切手趣味週間」で、額面は15円!ちょっと使いづらいので、こちらもリバイバルを希望したいです。

メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年(国立新美術館)ルネサンスからポスト印象派まで、時代を追って美術の変遷を鑑賞するという美術史の教科書的構成。カラヴァッジョの《音楽家たち》とレンブラントの《フローラ》が良かった。


2022年5月3日火曜日

月イチで翻訳ミステリを読んでみた(2021年下半期)


月イチ翻訳ミステリ、2021年下半期の記録です。月イチと言いつつ読めてない月がありますが……。

2022年5月1日日曜日

月イチで翻訳ミステリを読んでみた(2021年上半期)


しばらくアンネ・フランク関連本の話が続きましたけど、それ以外にも本は読んでいます。小説ならやっぱりミステリよね!という気持ちがあるので、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」のサイトは時々チェックしています。次に何を読もうかな~?という時などは「書評七福神の今月の一冊」が参考になります。

 □ 翻訳ミステリー大賞シンジケート書評七福神の今月の一冊

昨年は毎月1冊はここから選んで読んでみよう!と思って頑張ったのですが、1年続けてみて「無理に選ぶのも良くないかな」と思い直しました。今年からは月イチにこだわらず、もう少し厳選して読んでいこうと思っています。

せっかくなので、昨年はどんな本を読んだのか?という所を備忘録程度に書いておきます。まずは1月から6月まで。

2022年4月29日金曜日

日本における『アンネの日記』受容とアンネ・フランク像の形成について

えらそーなタイトル付けましたけど、実は何にもわかってません。これってタイトル詐欺?

『アンネの日記』について何回か書いてきましたが、受容史やイメージ形成の経緯に興味を持った最初のきっかけは、2014年に掲載されたハアレツ紙(イスラエルの新聞)の記事です。

以前に書いたように、2014年の2月に東京都内の図書館で『アンネの日記』やその関連書籍が相次いで破られているという報道がありました。その後、アンネ・フランク関連に限らず杉原千畝などホロコーストに関連する書籍全般が被害に遭っていたことがわかりましたが、容疑者は3月に逮捕されました。

その事件が起きていた当時、Twitterなどで関連する情報を眺めていたところ、ハアレツ紙の記事に行き当たったのです。

2022年4月23日土曜日

『悲劇の少女アンネ』と『少女アンネーその足跡』を比較する

アンネ・フランクの話がまだ続きます。今回はエルンスト・シュナーベルによる Anne Frank: Spur eines Kindes の訳書2冊とその内容について。

訳書2冊と書きましたが、厳密には少なくとも4種類発行されています(私が確認したものだけなので、他にもあるかも)。

  • 1958年『アンネのおもかげ』みすず書房
  • 1968年『悲劇の少女アンネ』偕成社 ※新版1991年
  • 1969年『少女アンネの悲しみ』偕成社
  • 1978年『少女アンネ―その足跡』偕成社

2022年4月21日木曜日

2022年切手趣味週間の切手で歌麿と写楽のマキシマムカードを作成

切手趣味週間の切手が発売になりました。最近、記念押印はもっぱら郵頼を利用していたのですが、今回は久々に押印会場に行って来ました!

喜多川歌麿の《ポッピンを吹く娘》と東洲斎写楽の《市川蝦蔵の竹村定之進》のマキシマムカードです。もう1種、鈴木春信の《手毬つき》も入っているのですが、これはポストカードが見つからず、また押印デザインにも採用されていないので作成できませんでした。

昨年は郵便創業150年ということで、明治時代の「郵便取扱の図」「郵便現業絵巻」が選ばれていましたが、今年は「過去の切手趣味週間に採用した浮世絵から3点を選びました」とのこと。なぜ過去の作品からリバイバルなのか、郵便局のサイトでは説明が見つからないのですが…切手趣味週間75周年(1947年開始)だからですか?

 ■ 切手趣味週間

《ポッピンを吹く娘》*は1955年、《市川蝦蔵の竹村定之進》は1956年、《手毬つき》は1957年に発行された「切手趣味週間」切手なんですね。それぞれ額面は10円。時代を感じますね。

*この作品は昔《ビードロを吹く娘》と呼ばれていて、55年版も名称は「ビードロ」だったみたいです。

《ポッピンを吹く娘》は《寛政三美人》とともに歌麿の人気作品でグッズ率高いですね。また《市川蝦蔵の竹村定之進》は左目が江戸東京博物館のシンボルマークになっていることでも有名。何かコラボできるんじゃ?と思ったら江戸博は改修のため長期休館中でした。残念。

 ■ 江戸東京博物館 - シンボルマーク

春信切手は、また別の機会に使おうと思います。タイトルは《手毬つき》になっていますが、もとは12か月の風俗を描いた揃い物で、羽根つきをする少女とのペアになっている作品をトリミングしたもの。これは、数年前に千葉市美術館の春信展で見たのですが、図録を見てみると「鈴木春重(司馬江漢)の作ではないかとする意見もある」と書いてありました。うーむ……。

出版されたのが春信の亡くなった年であることや、人物表現がやや生硬であることなどからきている意見のようですが……。この作品の真贋はともかく、江漢が贋作をいくつか描いていることは確からしいです。なぜそれがわかったのかというと、「版元に頼まれて贋作描いちゃいました、てへぺろ」と江漢が日記に書いていたからだそう。現代なら刑事事件に発展しかねない事案ですが、当時は問題なかったのでしょうか。これも別のスケールで時代を感じます。

2022年4月15日金曜日

『アンネの日記』に関するWikipedia記述の出典を探す(後編)

前編では、Wikipedia「アンネの日記」に掲載されている話の出典が見つからん!いくら探しても見つからん!という話を書きました。

それがですね、シュナーベル著『悲劇の少女アンネ』のあとがきに、そのままではないですが似たような記述を発見しました。

2022年4月14日木曜日

『アンネの日記』に関するWikipedia記述の出典を探す(前編)

前にご紹介した『アンネ・フランクの密告者』ですが、どうやらオランダでは絶版・回収が決定したとのこと。Amazonで見ると日本語版と英語版は普通に販売されているようです。個人的には絶版・回収よりも反論本を出してほしいなと思いますが…。

それはさておきアンネ・フランクの話、もう少し続きます。

アンネ関連の本をまとめて読んだ時だと思いますが、気になったことがありました。Wikipedia「アンネの日記」にある次のような記述です。

日本語訳の初版が出版された当初のオランダでは、日本がこの本を発行することに対する抵抗が強かった。原因はかつてオランダは、アジアに持っていた植民地であるインドネシアにおいて、大日本帝国と対峙し追い出された上に、かつて大日本帝国がナチス党政権下のナチス・ドイツの同盟国であることが原因と思われる。訳者の1人が、アムステルダムの本屋で、アンネ・フランクについての文献を探していたところ、市民らから「お前たち日本人に、アンネのことが分かってたまるか!」と店から追いだされたり、本屋によっては「日本人にはアンネの本は売れない」と拒否されたという(訳者の一人の「解説」より)。

これを読んで「何か変だな」と思ったのです。こんなこと本当にあったのでしょうか? 「訳者の一人の『解説』より」という書き方も何だかいい加減というか、出典の書き方としてWikipediaの基準をクリアしているとは思えません。

2022年4月10日日曜日

3月に鑑賞した展覧会


2月に鑑賞した展覧会を振り返ったときに「月末までにポンペイ、ミロ展、山種の松園松篁のうち1~2展は見よう」と書いていましたが、結局ポンペイ展は行けませんでした。4月下旬までやっていると思っていたら4月3日までだったのですね!気づいた時にはもう予約枠が埋まっていたのでした…。

赤―色が語る浮世絵の歴史(太田記念美術館)
浮世絵に使われる「赤」には、顔料の種類や使い方によるさまざまな表現があります。合成染料を使った明治時代の「赤絵」は、最初見た時は毒々しいと感じたのですが、見慣れてくると、これはこれで良いんじゃない?とも思うようになりました。

ミケル・バルセロ展(東京オペラシティアートギャラリー)
キャンバスをたわませ、絵の具を立体的に盛り上げた「レリーフ絵画」の迫力がすごい。

生誕110年 香月泰男展(練馬区立美術館)
最終日に駆け込み鑑賞。この時代に「シベリアシリーズ」を見るのは、心理的に少々しんどいですね。

空也上人と六波羅蜜寺(東京国立博物館)
東博に行ってみるとポンペイ展は当日券を求める長蛇の列。空也上人の方は余裕で予約できましたが、それでも入場制限はありました。口から6体のミニチュア阿弥陀像が出てくる姿は教科書で見て印象に残っていました。

ミロ展―日本を夢みて(Bunkamuraザ・ミュージアム)
ミロと日本の関わりがこんなに強かったとは知りませんでした。日本でのミロ受容や瀧口修造との交流にも興味あり。

4月は近美の清方展、新美のメトロポリタン展には行きたいと思っています。都美館ではスコットランド国立美術館展が始まりますし、西洋美術館も改修工事を終えて再開されるので上野方面も要注目。

2022年4月3日日曜日

2022年度の特殊切手

以前にブログ記事で紹介した美術切手の一覧表を、独立ページに貼ってみました。サイドメニューの「PAGES」の下にリンクが表示されているはずです(スマホ等ではタイトル「Hermit Days」の下にあるプルダウンメニューから選べます)。

念のため、ここにもリンクしておきましょうか。

 ■美術作品の切手リスト

随時アップデートしていますが、最近ではグリーティング切手「ライフ・花」に竹久夢二の作品が用いられ、それが20種類もあるので(63円と84円で各10種)けっこう場所を取っていますね。グリーティング切手に美術作品が使われるのは珍しいのではないでしょうか。

さて、この夢二切手は2月発行でしたが今月は恒例の切手趣味週間があります。昨年を除いてしばらくは琳派の屏風が続いていたので今年は…?と思っていたら、過去の切手趣味週間に使われていた浮世絵の再登場です。

 ■切手趣味週間(2022年)

歌麿に写楽とくれば、これはぜひともマキシマムカードを作成したいところです。最近はコロナのこともあって郵頼ばかりでしたが、郵頼は事務的に面倒だし為替料金も上がってしまったし、ということで久しぶりに押印会場に行ってみようかなと思います。

美術関連で今年発行される切手としては、8月に「美術の世界 第4集」があります。これは色がテーマになっていて、今までが青・赤・緑だったので、順番でいくと今年は黄色ですか?だったらゴッホの《ひまわり》はガチで入りそうですよね。日本画だと菱田春草とか?金色も入れて良ければ、御舟の散椿や愛知にあるクリムトの《黄金の騎士》も…?と、まだ決まったわけでもないのに勝手にいろいろ期待してしまいます。

そして10月には国宝シリーズ!今年は東京国立博物館創立150周年に合わせてくるみたいなので、東博の所蔵作品が選ばれるのでしょうか。《花下遊楽図》と《観楓図》は昨年使用されたので、何だろう……有名どころでは《松林図屏風》や《洛中洛外図》(舟木本)が思い浮かびます。10月は国際文通週間もあるので忙しそうです。



2022年3月25日金曜日

2月に鑑賞した展覧会

ブログのデザインをウクライナっぽく変えてみました(ディスプレイによっては下の小麦畑まで見えてないかもしれませんが)。2月に鑑賞した展覧会を振り返ります。


よみがえる正倉院宝物(サントリー美術館)
歴史の研究であり、技術の継承でもあると同時に、貴重な美術品を広く鑑賞できる「普及」の意味もある再現模造品。本物じゃないんでしょ?と侮ってはいけません。

フェルメールと17世紀オランダ絵画展(東京都美術館)
直前に開幕が延期されて不安でしたが、無事に開催されて鑑賞できました。賛否両論の修復作品、個人的には修復前(キューピッドなし)の方が好みです。他に気になった作品は、メツーの《鳥売りの男》と《鳥売りの女》。

上村松園・松篁・淳之 三代展(東京富士美術館)
コロナ以後の初訪問になりました。松園の美人画がメインで多数の作品が来ていましたが、松篁の動物画も良いですね。淳之さんは今回初めて拝見するかも。同時開催の山本作兵衛展もすごく密度が高くて充実していました。

3月は仕事が忙しくてあまり展覧会にも行けませんでしたが、月末までにポンペイ、ミロ展、山種の松園松篁のうち1~2展は見ようと思っています。


2022年3月16日水曜日

『アンネ・フランクの密告者』

前回にちょっと紹介した『アンネ・フランクの密告者』は、元FBI捜査官を含む「コールド・ケース」チームが、1944年にフランク一家の隠れ家を密告した「犯人」の正体を暴く――という内容です。


アムステルダムの社屋の裏に隠れ住んでいたアンネ・フランクの一家は、1944年の8月に発見され、強制収容所へ送られました。この摘発は、何者かが密告したためではないか――ということが長年言われており、一家の周辺にいるさまざまな人が「容疑者」として名指しされてきました。日記本文でもあまり好意的に書かれていなかった倉庫番、清掃業者とその妻、ベップ(協力者の一人)の妹など。また、周辺の住民が物音などで気付いて通報したという可能性もありました。

数年前には、密告ではなく食料の偽造配給切符の捜査中にたまたま発見されただけではないか――という新説を「アンネ・フランク・ハウス」が発表し、話題になりました。

2016年には、さまざまな疑惑を精査し直そうという「コールド・ケース」プロジェクトが立ち上がり、これが本書の基になっています。

(以下、内容の紹介など)

2022年2月26日土曜日

『アンネの日記』と関連本を読む

旧ブログに書いた記事を再掲します。これは2016年の12月に『アンネの日記』とその関連本を何冊か読んだときに書いたものです。最近、フランク一家の「隠れ家」を密告した新たな「容疑者」が特定されたり(これについては後日取り上げたいと思います)、新作のアニメが来月公開されるなど、アンネ・フランクへの注目が高まっているようです。

現在ウクライナが大変なことになっていますが、ウクライナのアンネ・フランクが生まれないことを祈りつつ。



※以下の文章は、2016年12月23日に旧ブログ(http://hermitage.rdy.jp/days/?p=1209:現在はデッドリンク)に掲載したものです。公開後、この文章をコピペ改変して載せているサイトを発見しましたが(現在は確認できず。削除されたのかもしれません)、そのサイトと当ブログはいっさい無関係です。
※本の紹介に一部追記があります。

2022年2月23日水曜日

1月に鑑賞した展覧会


2月も下旬になってしまいましたが、1月に鑑賞した展覧会を振り返ります。

今年はですね、1月の2日か3日に「美術初もうで」として竹橋にある近代美術館の「民藝の100年」展に行こうと思っていたのですよ。しかし元日に予約しようと思ってサイトを見たら、2日はもう夕方の時間しか空いていなくて。3時半とか微妙な時間帯じゃないですか。民藝展は見られるだろうけど、常設のコレクション展を見る時間はなさそうだし、帰りの時間には真っ暗になっちゃうし……。

そしてなんと、3日は休館じゃないですか!近美!

確かに1月3日は月曜ですし、カレンダー上は平日なのでお休みで良いのでしょうけど、三が日は開館しているだろうと思ったら大間違いでしたね。

そんなわけで、予定を変更して今年の三が日はステイホーム。昨年から残っていた事務作業などを片付けているうちに何となく仕事を始めてしまい、いつにも増して正月感のないお正月になってしまいました。

その後も仕事が入ったりしたので、結局今年最初の展覧会は1月15日、太田記念美術館の「江戸の恋」になりました。

以下、1月に鑑賞した展覧会です。


江戸の恋(太田記念美術館)
浮世絵に描かれるさまざまな「恋」の場面。出会いを予感させるようなさりげない描写から、ドロドロの恋愛を描いた芝居の場面まで。ちなみに春画はありませんでした。

ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵(千葉市美術館)
千葉まで遠いうえにボリュームがすごくて。一通り見るだけでヘトヘトになりました。今まであまり紹介されてこなかった「ロシアのジャポニスム」に興味津々。

白井晟一 入門(松濤美術館)
第2部のみ鑑賞。白井晟一が設計した美術館の建物それ自体が「作品」で、普段は見られないような渡り廊下や回廊が「このようになっていたのか」という感じで面白かった。普段は作品に気を取られて建物はあまり気にしないので…。

柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年(東京国立近代美術館)
リベンジ初もうで。「民藝」運動については、縄文展や式場隆三郎展などで言及されていて気になってはいたものの、まとめて知る機会がなかなかありませんでした。昨年の「あやしい絵」展に続いて、日本の近代について考える展覧会になりました。


もっと知りたい柳宗悦と民藝運動 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2022年1月1日土曜日

新年@2022

あけましておめでとうございます。大みそかはものすごく冷え込みましたが、元日の今日は晴天で気温も上がっています。


今日は何をしているかというと、まだ手帳の引継ぎが済んでいないので、今月の予定や昨年のやり残し事項などを書き写していきます。なぜ手書きでわざわざ書き写すかというと、不要な物を消したり、必要な準備作業を追加したりといったメンテナンスがしやすいから。データのコピペや付せんの貼り替えだと何も考えずに機械的に移行してしまったり、「念のために残しておこうか」みたいな気持ちがはたらいたりして、結果として無駄な記述が増えがちになってしまうので……。

その後は、滞っていたサイト更新に取りかかります!「美術初もうで」は明日か明後日にどこか行こうと思います。

本年もよろしくお願い申し上げます。


「大吉原展」その2・展示感想編

東京藝術大学大学美術館で開催中の「大吉原展」について。開催前の炎上騒動については前回詳しく書きました。今回は展示内容についての感想です。 その前に、大事なことなので前回の注意事項を繰り返しておきます。 図録は大きくて重い。東京新聞のサイトから通販可 ひととおり見る...