2021年10月31日日曜日

7月・8月に鑑賞した展覧会

 7~8月は仕事が忙しかったのと東京都の感染爆発の影響で、美術館めぐりもあまりできませんでした。2ヶ月まとめて振り返ります。

特別展「聖徳太子と法隆寺」(東京国立博物館)
『日出処の天子』で予習しておいた展覧会。こちらは聖徳太子にまつわる品々や像、法隆寺の宝物などの展示で、正直あまり「王子感」はありませんが、勉強になりました。


特別企画 「イスラーム王朝とムスリムの世界」(東京国立博物館)
上記の聖徳太子展と同じ日に、東洋館の地下で見てきました。イスラームと一口に言っても時代・地域ともに広すぎるのですが、その守備範囲の広さを感じさせる展示でした。

「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」 (東京国立博物館)
東博が続きます!奈良県・聖林寺の国宝「十一面観音菩薩立像」の貴重な東京出張でした。平成館の特別展に慣れていると、本館の特別室は小さく感じますね(汗

「ざわつく日本美術」(サントリー美術館)
最初にチラシを見た時「なんだコレは!?」と度肝を抜かれました。普段は見えないような能面の裏、掛け軸に仕立てられた《三十六歌仙》が絵巻だった時代の姿の再現、箱と蓋を別々に展示するなど、面白い仕掛けがたくさん。


2021年10月25日月曜日

「イスラエル博物館蔵 印象派・光の系譜」展 ブロガー内覧会

 三菱一号館美術館で開催中の「イスラエル博物館蔵 印象派・光の系譜」展のブロガー内覧会に参加させていただきました。主催者・運営者の皆様ありがとうございました!

内覧会は本当に久しぶりで、コロナ以降は初めてです。以前は担当学芸員さんの周りに集まって解説や見どころを聞くというスタイルが一般的でしたが、このご時世なのでギャラリートークは距離を取ってインカムで聞くスタイルになったようです。ようです、というのはインカムの使用を申し込み時にチェックしなければいけなかった(希望者多数の場合は抽選)らしいのですが、その点を見落としていたみたい。そんなわけで、今回は作品鑑賞のみになりました。

以下、展示コースに沿って内容をご紹介します。掲載している写真は、特別に許可を得て撮影したものです。


今回の展覧会に作品を提供しているイスラエル博物館は、1965年にエルサレムに開館された博物館で、死海文書で有名ですが、絵画作品も多数所蔵しています。2018年に開催された「ミラクルエッシャー展」の作品もここのコレクションでしたね。

今回は印象派を中心に、バルビゾン派からポスト印象派あたりまでの作品を展示。タイトルに「光の系譜」とあるように、光の表現に注目させるラインナップになっています。


1. 水の風景と反映

最初の部屋にはコローやドービニーの作品が並びます。コローの作品は、特徴的な霧にけぶる木々の表現が印象的。湿度高そうです。


次の部屋は時代が少し進んで印象派のモネやブーダンの作品があり、色彩がぐんと明るくなった感があります。モネの描くエトルタの奇岩もありました。

インテリアとの相性の良さも抜群!

3階の大きな部屋ではメインビジュアルになっているモネ《睡蓮の池》とご対面。1907年の作品です。モネは、この睡蓮を連作として200点以上描き続けていますが、この1907年は《睡蓮の池》の当たり年とも言われているとか。同じ構図で描いた作品が国内にも3点所蔵されており、本展にも特別展示作品として展示されています(10月現在は2点のみ)。

明るく柔らかな光を表現する作品が多い中、レッサー・ユリィの《風景》が少々異彩を放っていて印象に残りました。ユリィはドイツ出身の画家で、分離派に参加しています。

モネの連作《睡蓮》については、決定版ともいえる書籍があります。著者の安井裕雄さんはこの三菱一号館美術館で学芸員をなさっています。

2. 自然と人のいる風景

郊外の村や田園の風景。自然の広がりとともに、その中にいる人の姿も描かれています。そもそも田園というのは人の手が加わった自然の形なので、人がいるのは当然かもしれません。ゴッホ作品が2点並んでおり、赤と緑、黄と青という組み合わせの色使いが美しいです。

廊下を通って小部屋に入ると、ゴーガンの作品群に迎えられます。こぎれいに整った「ヨーロッパの田園」とは一味違うタヒチの踊りや、その後のナビ派につながるような大胆な色彩。

3. 都市の情景

農村の風景とくれば、次には都市の風景。オスマンの大改造で近代都市に生まれ変わったパリの風景が並びます。ピサロの作品が多いですね。

ここで先ほど名前の出たレッサー・ユリィが再び登場。ベルリンを描いた作品がとてもモダンで洗練されています。

フォルカー・クッチャーが書いた、大戦前のベルリンが舞台の小説を思い出しますね。

 

さて、階段で2階へ降りると、上記の特別展示作品《睡蓮》が並んでいます。現在はDIC川村記念美術館と和泉市久保惣記念美術館の作品。もうひとつ、東京富士美術館の作品は11月30日以降になるとのことなのでご注意ください。

そして次の部屋にはルドンの《グラン・ブーケ》。

4. 人物と静物

最終章は「人物と静物」で、場面は戸外から室内へ。人物画はやはりというべきかルノワールの作品が多数ありますが、個人的に印象に残ったのは、下の右端にある《花瓶にいけられた薔薇》です。ルノワールは確かに人物を好んで多く描きましたが、花や果物などの静物にもすぐれた作品が多数あります。

そして室内の日常を描いたヴュイヤールやボナールの作品など。赤い絨毯がぱっと目を引く作品があると思ったら、またしてもレッサー・ユリィでした。ユリィという画家とその作品を知ることができたというのは大きな収穫だったと思います。


「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」

  • 会期:2021年10月15日(金)~ 2022年1月16日(日)
  • 三菱一号館美術館
  • 公式サイト:https://mimt.jp/israel/

2021年10月18日月曜日

美術作品の切手リスト

絵画や彫刻などの美術作品をモチーフにした切手を一覧表にしてみました。2019年以降のものなので、大きめの郵便局(東京中央とか)に行くか、あるいは郵便局の通販を利用すれば買えるものが多いと思います。URLのリンク先(右端の列へスクロールすると見えます)は郵便局の切手紹介ページで、そこからWebショップに飛べるはず。表が見えていなければコメント等でお知らせください。

なぜこの一覧表を作ろうと思ったのかというと、どういう作品が切手になっているかとともに、それがどこに所蔵されているか、どこに行けば見られるのか(お揃いのポストカードを入手できそうか)ということを知りたいと思ったからなのです。其一の《朝顔図屏風》以外はすべて国内の美術館にあるので、コロナ禍でも比較的容易に見に行けるのではないでしょうか。

《東海道五十三次》や《冨嶽三十六景》のような揃い物は、所蔵している美術館が多いのと、ポストカードもあちこちで販売されているので所蔵館は省略しました。



2021年10月16日土曜日

Twitterの有名右派アカウントについての情報まとめ

たまには時事問題なども。

10月の始め頃からTwitterその他で話題になっている右派アカウント「dappi」氏問題。国会での質問に取り上げられてから大手メディアでも報じられるようになりましたが、ちょっと情報が混乱気味なので(私が混乱しているだけなのかもしれませんが)、ちょっと整理してみました。

現時点でこの問題に直接関連することをざっくり説明すると、

  • Twitterアカウント「dappi」が立憲民主党の小西議員の名誉を棄損
  • 小西議員は開示請求を行い、判明した企業を相手に訴訟を提起

……というところです。今北産業で書こうとしたら2行で終わってしまいました。いやー、でも確実だと思うことに絞ってみたらこうなっちゃうんですよね。その背後に誰がいるか、とか色々想像はしていますが、想像の域を出ていません。

この問題、関心も高いと思いますので、そのうち続報もあるでしょう。この手の話題に強いのはやはりBuzzFeed Newsなので、注目しておこうと思います。dappi氏の正体や背後関係も気になりますが、この件をきっかけに政治宣伝工作の仕組みに対して注目が高まっていくことを期待したいです。

 ■ BuzzFeed News


dappiとは誰か、何が問題なのか

そもそもdappiとはどういうアカウントなのか。現行のdappi2019は2019年6月に開設されましたが、これは2代目。以前はtake_off_dressというアカウントで2015年くらいから活動していたようですが、こちらは凍結、つまりアカウントはあるものの利用できない状況にされています。

ツイートの内容は主に、自民党や維新などの右派政治家を礼賛し、他の野党議員をこき下ろすというもの。それ自体は良いのですが、問題は虚偽の内容が含まれていること。国会中継の動画を切り貼りしてまったく別のやり取りに仕立てるなど、悪意あるデマ攻撃があるということが、以前から指摘されてきました(1)。本人にもフォロワーが大勢いますが、さらに著名人がリツイートすることが多く、かなり拡散力の強い存在であったといえます。dappi氏の存在は国外でも注目されていたらしく、外国の外交官も関心を持っていた(2)ようです。

1. https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/toshu-toron
2. https://twitter.com/masurakusuo/status/1447550855087943688

国会の会期中はずーっと中継に張り付いて動画を投稿。動画を編集してアップする作業の速さと手際の良さ、またツイートの時間帯が平日の9時から5時という、いわゆるビジネスアワーに集中していることから「仕事でやっているのではないか」という憶測もなされてきました。それを指摘されてから、ちょっと時間帯が広がったりしたみたいですが…。


自民党との関係

これがいちばん憶測を呼んでいますし、だからこそ慎重にならざるを得ないのですが。今のところdappiアカウントと自民党を直接結ぶ報道は(まだ)ないと思います。

dappi氏がネット接続に使っていた回線の契約者が法人(小西議員が提訴した相手企業)であることから、そこの社員がこのアカで投稿していたのではないかと思われるものの、10月16日現在この企業は何もコメントを出していませんし、どうも取材できない状況みたいです。なので、社員が就業時間中にこっそり脱皮していたという可能性もギリ残ってるんじゃないかと(どんな会社だよ)。この会社の回線を使っていたということは、テレワークではないですよね。

自民党の都連や所属議員がこの企業と取引していたことは確かで、それは政治資金収支報告書に記載されていますが、Webサイト制作を発注するといった普通のお仕事のようです。「Twitterで野党をこき下ろす活動」とか書いておいてくれればわかりやすいんですけどねぇ。

日刊ゲンダイの「新疑惑!」は、「岸田首相や甘利幹事長が代表取締役を務めていた企業」に言及していますが(3)、これは上記企業の「取引先」であって、これも間接的じゃないでしょうか。この、記事中にある「A社」がどういう企業なのかいまいちよくわかりませんが、自民党議員や都連から仕事を受注しているなら、A社とも何か取引があってもおかしくない気がします。私がよくわかっていないだけなんでしょうか。

3. https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/296085

また、自民党が選挙中にネットで対立候補のネガティブキャンペーンをやるのも事実で、これは河井克行元法相の公判で明らかになっています(4)。この「対立候補」って、河合案里さんの時は同じ自民党の溝手さんです。

4. https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=691375&comment_sub_id=0&category_id=1256

他に自民党にはネットサポーターズクラブというのもあって、とにかくネット上ではいろいろ活動しているようです。あれこれ考えあわせて、だからdappiの背景には自民党が!業務としてデマ拡散を請け負っていた!と思いたくなる気持ちもわかるのですが、点と点をつなげるのはもっと慎重になった方が良いのではないかと思います。

ちょっと相関図を描いてみました。こんな所で合ってますか?


名前を書こうと思ってたのに書き忘れた!


その他

dappi氏が「ただのネトウヨではない」と言われていた理由には、投稿時間などの他に

  • 議員だけに配布された内部資料を持っていた
  • 国会図書館分館を利用できる

という2点がありましたが、その後に出てきた指摘も含めてよくよく調べてみると、どちらも怪しい。

まず、最初の「内部資料」は、昨年1月の参議院予算委員会のものだと思いますが、これはその数時間前に社民党の福島議員が投稿しているものという指摘がありました(5)。

5. https://twitter.com/jishin_dema/status/1447055377359507461

画像をコピペして並べてみましたが、確かに。縮小しただけで同じものに見えます。

福島議員に許可を取って転載したとも思えないのですが、著作権を主張できる文書でもないと思うので、そのへんは問題ないのでしょう。

国会図書館分館の件は、数年前の首相動静の記事を短時間で揃えることができた、ということから言われているものだと思いますが、こちらも現段階では根拠不十分と言わざるを得ません。

これはモリカケ疑惑のいわゆる「愛媛文書」が出てきた時の話。2018年の5月に「加計理事長と安倍首相(当時)が2015年2月25日に面会した」とする文書が発表されましたが、その翌朝にdappi氏は当日の「首相動静」を6紙並べた画像を投稿し「どの新聞にも面会したとは書かれていない」と投稿しました(この投稿は旧アカウントで、現在は凍結されていて見ることはできません)。

で、その「主要6紙の記事」をどうやって集めたんだ!? と、皆驚きました。報道が出たのは前日の夕方で、投稿は翌日の9時50分。「6紙」の中には縮刷版のない産経新聞も含まれていたということで、「3年前の新聞の現物が保管されているのはどこだ」となったわけです。それなりに規模の大きな図書館に朝イチで行かないとできないでしょう。そこで出てきたのが国会議事堂内にある国会図書館分館(一般人は利用不可)なのですが(6)、ここを利用すればできる、ということであって、利用しなければできない、とは限らないと思うんですよねぇ。ではどうやったのか、と言われるとちょっとわからないのですが。

6. https://twitter.com/main_streamz/status/998947624542588928

個人的には一連のdappi問題の中でもこの新聞記事の調べ方が特に気になっています。どうやって調べたのかがわかれば、調べものするのに役立ちそうじゃないですか? でも、真相は案外単純なことなんじゃないかという気がしていますが…。

現在のところは以上です。


2021年10月9日土曜日

美術作品の切手

突然ですが、絵画などの美術作品の特殊・記念切手をまとめてみようと思い立ちました。最近「美術の世界シリーズ」とか、絵画切手が多いなと思って…。絵画の切手があったら、同じ柄のポストカードを買って合わせてみたいじゃないですか。展覧会に行けばグッズとしてポストカードはほぼ確実にありますし、モチーフによっては、風景印や小型印を合わせてマキシマムカード(マキシカード)も作れそうです。

マキシカードとは、ポストカードの絵の側に切手を貼って絵入りの消印を押し、それぞれ同じ柄(もしくは関連の深いモチーフ)で合わせたものです。詳しくは切手の博物館「マキシマムカード」をご覧ください。手紙の書き方コンサルタント・田丸有子さんのブログ CORDIALLY YOURS にも美しいマキシカードの写真がたくさんあります。


絵画切手といえば、10月23、24日に切手の博物館で「第18回絵画切手展」が開かれるみたいです。23日には上村松園《母子》の小型印が使用されるのですが、これは切手を持っているので、ポストカードをゲットしてマキシカード作れるかな?と考えています。《母子》は東京国立近代美術館の所蔵で、有名作品なのでポストカードもショップにありそうな気がします。

さて、まとめ作業です。まずは準備のため、絵画の切手がどの程度発行されているのか、郵便局のサイトで調べてみました。2019年から始めているのは、この年から消費税アップで料金が変わっているから。2019年の前半2つは旧料金なのでご注意ください。

出典:切手発行一覧

■2019年

  • 4/19 切手趣味週間
  • 7/30 動物シリーズ2
  • 9/20 日本芸術院創設100周年
  • 10/9 国際文通週間

■2020年

  • 3/19 美術の世界シリーズ1
  • 4/20 切手趣味週間
  • 5/8 日本の伝統・文化シリーズ3
  • 5/29 国宝シリーズ1
  • 10/9 国際文通週間
  • 10/16 美術の世界シリーズ2

■2021年

  • 1/22 自然の記録シリーズ
  • 4/20 切手趣味週間・郵便創業150年
  • 5/21 日本の伝統・文化シリーズ4
  • 6/16 国宝シリーズ2
  • 8/25 日本国際切手展2021
  • 9/8 美術の世界シリーズ3
  • 10/8 国際文通週間

こんなところかな。

問題はここからです。それぞれのシリーズに、誰の何という作品があって、どの美術館に所蔵されているかをチェックしていきますが、特に「美術の世界」が大変そう!現在Bunkamuraザ・ミュージアムでポーラ美術館のコレクション展が開催されているので、所蔵作品をチェックしてから行きたいなぁ。

作業はまだ続きますが、今回はとりあえずここまで。

「大吉原展」その2・展示感想編

東京藝術大学大学美術館で開催中の「大吉原展」について。開催前の炎上騒動については前回詳しく書きました。今回は展示内容についての感想です。 その前に、大事なことなので前回の注意事項を繰り返しておきます。 図録は大きくて重い。東京新聞のサイトから通販可 ひととおり見る...