2021年12月31日金曜日

2021年展覧会ベスト5


今年もベスト展覧会を選んでみました。昨年に引き続き、展覧会に行く回数が減っているのでベスト10ではなくベスト5です。順位はつけず、鑑賞した順に並べています。

ミティラー美術館コレクション展(たばこと塩の博物館)
インドの伝統的な手法で描かれた絵画やテラコッタなど。素朴な味わいとスケールの大きさが凄かった。一口にインドといっても地域や民族による違いがあることや、現代との「地続き」感が感じられたことも印象に残ります。そしてこの「ミティラー美術館」が新潟県にあるという事実にまたびっくり。

渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画―(東京藝術大学 大学美術館)
七宝焼きの原画を描いた人、という程度の認識でしたが、思いのほか画業の幅が広く、またどの作品もため息が出るほど美しい。こんなにレベルの高い作品ばかりなのに、最近まで忘れられた存在だったなんて……(展覧会や画壇から距離を置いていたことや、弟子を取らなかったことが理由のようです)。

あやしい絵展(東京国立近代美術館)
近代日本の精神を探るような構成の展覧会。西洋の文化、神話、異世界、時代、文学。「美」とは何か、また「美を描く」とはいかなる行為であるかという点も考えさせられます。

版画の見かた ―技法・表現・歴史―(町田市立国際版画美術館)
版画という技法/メディアを包括的におさらいするような展覧会。複製という属性を持つ「版画」技法は、芸術作品としてさまざまな表現の可能性を持つと同時に、大量生産システムに組み込まれていく運命も担っているんだな、みたいなことを思いました。

グランマ・モーゼス展(世田谷美術館)
今年いちばん楽しみにしていた展覧会です!無事に開催されて本当に良かった。素朴な描線で、視点の取り方や遠近感のおかしい所はあるのに作品としてまとまり感があるというか落ち着きを感じます。刺繍絵などで長年培ってきた技法が、色使いや構図のまとめ方に活かされているからなのでしょうか。

以下は次点です。

電線絵画展-小林清親から山口晃まで-(練馬区立美術館)黒船から現代までの「電線」に注目した絵画展。電線だけで展覧会ができるというのも驚きですが、これも日本の近現代を表す風景なのですよね。

動物の絵 日本とヨーロッパ(府中市美術館)キャッチコピーの「ふしぎ・かわいい・へそまがり」がすごく的確に表していますね。日本美術と西洋美術に描かれたさまざまな動物たち。めっちゃ面白かったです。


今年は、たのしみにしていたマティス展とカラヴァッジョ《キリストの埋葬》展が中止になってしまったのが、本当に残念でした。でも昨年中止されたボストン美術館展は来年の開催が決まりましたし、カラヴァッジョも別の作品が来るので見に行きます!コロナ禍で展覧会を開催・運営する手法も確立されてきた気がするので、オミクロンに気を配りつつ、美術鑑賞を続けたいと思います。

来年もこのブログをよろしくお願い致します。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。


日経おとなのOFF 2022年 絶対に見逃せない美術展

2021年12月30日木曜日

11月・12月に鑑賞した展覧会

そろそろ年間ベストを決める時期になってきました。今年もベスト10は無理でベスト5になりそうですが……。

2021年展覧会納めとして、先日「大・タイガー立石展」を見てきました。埼玉は2館に分かれての同時開催で、徒歩で移動するとけっこう歩きます。あと両方で見る場合、チケットは別々なのですが「トラ割り」という券をもらえるので、それを見せると割引になります。私は最初に行った館でなぜかこの券をもらえなくて(配布忘れ?らしい)あやうく割引なしになるところでした。結局、半券を見せることで割引になりましたが……ちょっと何だかなぁという感じ。だったら最初から半券割引とかセット販売にした方が良くないですか?

それはともかく、11月と12月に鑑賞した展覧会をまとめて振り返ります。


版画の見かた ―技法・表現・歴史―(町田市立国際版画美術館)
版画というメディア全体をさまざまな角度から紹介する展覧会。芸術作品としての版画だけでなく、複製技術としての側面から「印刷」メディアまで幅広くカバーしていました。

動物の絵 日本とヨーロッパ(府中市美術館)
あれ、こんな季節に「春の江戸絵画まつり」?と思ったら違いました。江戸絵画展でおなじみの動物画や徳川家光の「ゆる作品」とともに動物を描いた西洋絵画も展示され、洋の東西を比較検討する面白い内容でした。

縄文2021―東京に生きた縄文人―(江戸東京博物館)
東京地域での遺跡や発掘調査の紹介、当時の暮らし方を再現したジオラマや、出土品からわかる交易の様子など。縄文と一口に言っても1万年以上も続いたんですよねぇ。

グランマ・モーゼス展(世田谷美術館)
素朴派の中でも大好きなグランマ・モーゼス。昨年から楽しみにしていました。自然の風景や農作業を描いた作品が面白く、東京展は特に冬季の開催なので季節感もばっちり!

聖徳太子 日出づる処の天子(サントリー美術館)
東博の展覧会は法隆寺でしたが、こちらは四天王寺メイン。「絵伝」以外にも現代につながるさまざまな太子像が鑑賞できました。山岸凉子作品の原画では、王子が笛を吹く場面が選ばれていましたが、その実物と伝わる笛の現物が冒頭に展示されています!

大・タイガー立石展うらわ美術館埼玉県立近代美術館
府中市美術館で《登呂井富士》を見てから気になっていたタイガー立石の回顧展。絵画以外にも漫画・デザイン・絵本と画業の幅が広く、またそれが優劣なく併存・融合している感じが面白かったです。


2021年12月27日月曜日

9月・10月に鑑賞した展覧会

 9月と10月に鑑賞した展覧会をまとめて振り返ります。緊急事態宣言が解除され、8月にはワクチンも2回目を接種したので、行く回数は多少増えたものの、なかなかペースは元に戻りませんね。


風景画のはじまり コローから印象派へ(SOMPO美術館)
以前は本社ビルの42階にあった美術館。新館に移転して初めて行きました。コロー作品をこれだけまとめて見たのも初めてかも!点描で描かれた珍しいドービニー作品があってびっくり。

大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―(江戸東京博物館)
甲冑や乗り物などの武家文化と、商家の年中行事。富永稲荷の社殿の再現ぶりがすごかった。

ピーター・シスの闇と夢(練馬区立美術館)
冷戦体制下のチェコスロヴァキア(当時)に生まれ、80年代にアメリカに亡命した絵本作家。ヨーロッパの古都プラハの持つ歴史と自由への憧れを強く感じさせる作品が印象に残りました。

印象派・光の系譜(三菱一号館美術館)
これは内覧会に参加して紹介記事を書きました。

ゴッホ展-響き合う魂 ヘレーネとフィンセント(東京都美術館)
海外から大量の作品を借りて開催される大型展覧会ということで、少々不安に思っていましたが、無事に開催されて良かったですね。クレラー=ミュラー美術館の名前は、新印象派やゴッホの展覧会でたびたび見かけてはいたものの、コレクションを築いたヘレーネ・クレラー=ミュラーについては、あまりよく知りませんでした。最近はコレクターにも焦点を当てた展覧会が増えてきたように思います。

甘美なるフランス(Bunkamuraザ・ミュージアム)
ポーラ美術館のコレクション展。印象派以降、近代のフランスを中心に、都市文化や生活を描いた作品や、「エコール・ド・パリ」作家の作品など。このブログ的には、切手に採用された作品が展示されていなかったことが少々残念ではありますが……。


2021年12月25日土曜日

2022年に使う私の手帳

来年の手帳について書こうと思っているうちに年末になってしまいました。そろそろ手帳の「引き継ぎ」をされている方もおられると思います。

私は来年、久しぶりに「ほぼ日手帳カズン」を使うことにしました。前回使ったのは「お言葉」が別冊になっていた時期ですから、かなり前です。今回のカバーは前にも書きましたが、ソール・ライターです。売り切れが予想されたので早めに入手しておきましたが案の定、ほぼ日のサイトでは少し前まで「売り切れ・再販予定なし」になっていました。現在は「2月1日再販予定」になっていますが、2月ということは、4月始まり版ですよね?(それって「再販」?)


でも買っておいてなんですが、ちゃんと使えるかなというのはちょっと不安……。

久しぶりにカズンを使うことにしたのは、ほぼ日サイトにある「このように使っています」という記事を読んだことがきっかけなのです。

 ■ あのひとの「ほぼ日手帳」006(「昔のページですよ」という警告ダイアログが出るので「このまま、以前のほぼ日手帳のページを見る」をクリックして進んでください)

タイトル部分にも書かれている「辞書のような『研究手帳』のカズン」を見て「これは!」と思ったんですよ。「ほぼ日」といえば、さまざまな紙モノを貼り込んでものすごく分厚くしている写真がInstagramなどでもお馴染みですが、紙モノ好きにはけっこう、ぐっとくる光景ではないでしょうか。よし、私も来年から仕事の資料と進捗管理はカズン1冊にまとめよう!それまでは同サイズのノートで試行錯誤しながら具体的な使い方を決めるのだ!

……と、思ったのは良いのですが、試行錯誤するうちに迷いが(あるある)

実を言いますと、その後 Notion というオンラインのツールを使い始めてしまい、資料は極力デジタル化してこちらにまとめておこうということになりました。

 ■ Notion

え、じゃあカズンはどうするの?というのが「イマココ」の状況なのですが……。

いまのところ、カズンではウィークリーをスケジュール管理、デイリーをジャーナリングとプロジェクト管理に使い、マンスリーをデイリーページの目次にしようかなと考えています。「プロジェクト」って、言葉はカッコいいですが、そんな大げさなことではないですよ。例えば、前回の記事に書いた「北斎の風景印の正体を調べる」というのも、現在進行中のプロジェクトだし、「タイガー立石の展覧会を見に行く」というのもプロジェクトなんです。

時間管理とタスク管理についても、そのうち参考書などをまとめてご紹介したいなと考えています。これも「プロジェクト」のひとつ――というか、「プロジェクト」という言葉をこういう用途に使うこと自体、GTD (Getting Things Done) という方法論に基づくものです。詳しくは以下の書籍をご覧ください。


『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』


2021年11月28日日曜日

北斎の風景印:その2

前回の記事で、「草津郵便局の風景印に使用されている『北斎の軸物』の正体が謎だという話を書きました。今回はその続きです。

北斎の作品であるという記述が正しいのであれば、北斎の作品を全部チェックしてみればわかるはずですよね。

昔なら図書館に通って分厚い画集をめくって探すところですが、最近は電子版で便利なものがあります。

北斎の作品を、修業時代から晩年まで、版本・錦絵・肉筆画などすべて網羅したシリーズです。全十巻ありますが、1巻100~500円なので全巻購入しました。しらみつぶしに見ていけばどこかに見つかるはず!

その結果。


……見つかりませんでした。



\(^o^)/オワタ

\( 'ω' )/オワタ

⌒/(。ω。)\⌒\(゚ω゚)/オワターーーーー

ええぇ、ここにもないってどういうことなんですか!!

もう一度印のデザインを見てみましょうか。

馬に乗った人と徒歩の人が3人。三度笠をかぶっているので旅人でしょうか。省略した描き方になっていますが、これは風景印デザイナーさんの腕のせいではなく、もとの「原画」がこのように描かれていたためと思われます。下半分の旧本陣は写実的に細かく描かれていますから。

見ていて気になったのは、馬の描き方です。頭を下げ、前足は片方をぴんと伸ばしもう片方を折り曲げる。後ろ足は「く」の字で尻尾は「つ」の字に揺れる感じ。このポーズ、北斎はけっこう多用しています。お得意のポーズなのかもしれません。

風景印そのままではないけれど、似ている構図はいくつかありました。

『富嶽三十六景』《相州江嶌》のモブとか。


『北斎漫画』とか。


『画本早引』の「旅」は風景印の雰囲気にちょっと似てるかも。


しかし単なるモブや版本の一部を風景印に採用するということは、あまり考えられません。そして風景印というものの性質を考えると、草津に関連する作品のメインのモチーフであるはず!

……そう考えてみると、北斎が草津に住む知り合いか門人に送った手紙の「挿絵」もしくは直筆の「絵手本」ではないかという気がしてきました。手紙なら作品集に載っていなくてもおかしくないでしょう。

ただし、まったく無関係な図案がなぜか選ばれてしまった可能性や、記述が誤っている可能性もあるので、真相はやはり謎です。

「郵便屋さんからの手紙」というブログには、風景印のモチーフにまつわるさまざまな「謎解き」や調査過程が詳しく記されていて、とても面白いです。これを読んでいると、カタログにこう書かれているからといって信用できるとは限らないんだなということがよくわかります。

 ■郵便屋さんからの手紙


2021年11月14日日曜日

北斎の風景印?

切手の話をしたら次は消印の話をしたくなりました。

最近出版された『風景印ミュージアム』を読んでいると、いろいろと風景印を集めたくなってしまうのです。ごちゃごちゃにしてファイルに突っ込んでいた切手とポスカも、ようやく整理できたし。

まず風景印って何なのかといいますと、絵入りの消印です。通常の黒い消印よりも大きく、現地の名所や名産品などがモチーフとして描かれたもので、郵便局に行くと押してもらえます。局によっては風景印がないこともありますが、全国の郵便局のうち、ほぼ半数にはあるらしい。郵便物に押してそのまま出すことも、押してもらった紙を持ち帰ってコレクションすることもできます。いずれにしても「消印」なので、ハガキまたは切手(ハガキ料金かそれ以上)に押してもらう必要があります。

図案にそれぞれにお国柄が出ているのが面白く、収集している郵趣家は大勢います。どの局にどういう印があるかという一覧も、書籍や電子データとして何種類か発行されています。株式会社鳴美の『風景印20xx』は2年に1度くらいのペースで改訂版が出ており、私は2016年のCD-ROM版を持っているので、基本的にはこれで調べ、2016年以降の新設や改変等を郵便局のサイトで検索しています(サイトには最近のデータしかないので、最初からここで調べるというわけにはいかないのです)。


風景印2020 CD-R版 CD-ROM

で、思ったのですけど(ここからが本題)北斎の風景印ってないですよね。

広重は《東海道五十三次》や《金沢八景》シリーズからいくつか採用されています。でも北斎ってないんですよ!北斎といえば富士山を描いた連作《富嶽三十六景》が有名だし、富士山も風景印のモチーフとしてはポピュラーなので沢山あってもおかしくないのに。

上掲の『風景印2016』で検索してみましたが、北斎に関連する風景印は2つしか見つかりません。しかも片方はすでに廃止、もう片方は作品が何だかよくわからないんですよ!どういうことなのか、ちょっとご説明します。

最初に見つかったのは、都内にある墨田緑町郵便局。『風景印2016』から引用してみましょう。


説明には「江戸東京博物館と北斎通りを描く」とあり、江戸博の特徴的な建物と「北斎通り」の標識があります。そして文中にはありませんが、その下の橋は↓これですよね!?


《富嶽三十六景》シリーズの《御厩川岸より両國橋夕陽を見る》です。橋と舟の形がゆるやかに反転S字カーブを描く幾何学的な構図で有名な作品。橋の形も富士山の位置も同じなので間違いないと思います。上に載せた画像の切手は、消印でおわかりのとおり今年の国際文通週間のもの。やったぁ、風景印でもマキシマムカードが作れる!

……と思ったら、何とこの風景印、昨年の3月で廃止になっていました。ええぇぇぇ~。


検索してみたら、郵便局が移転するために一時閉鎖になっているらしく、2022年頃には再開予定とのこと。再開時にはこの風景印も復活するのでしょうか。してほしいです。

それにしても「北斎通り」の表記があるから見つけられましたが、これがなかったら両國橋の図には気づかなかったかもしれないですね。他にも説明なしで図が使われている例があるのかもしれません。

さて、北斎の作品が使用されている風景印、二つ目は滋賀県の草津郵便局です。


これがですね、解説は「北斎の軸物を描く」となっているのですが、何という作品なのかわからないのです。上掲の『風景印ミュージアム』でも最後の方にこの風景印への言及があり、詳しくは(ネタバレになるので)本を読んでいただくとして、結論だけ書くと作品が何なのかはわかりませんでした。謎です。

風景印の使用開始は昭和41年ですから、けっこう古いです。想像ですが、作成当時は「北斎が草津を描いた作品」と評価されていたが、その後持ち主が変わったりして現在は所在不明になり忘れられている。もしくは、その後の鑑定で贋作だったことがわかり黒歴史化――というような事情があったりしないでしょうか?

版画なら作品が何枚も残っているので比較的探しやすいのですが、軸物(掛け軸)なら肉筆の一点物でしょうから、探すのも難しそうです。そもそも「北斎の軸物」という説明自体が間違っていてまったく無関係なのかもしれません。作品がわからなければ同じ絵のポスカを合わせることもできないしなぁ……ということで、今のところ「風景印で北斎のマキシマムカードを作る」ことはできていません。国際文通週間のシリーズは今後も続くと思いますので、こちらは来年も作成したいと思います。


2021年10月31日日曜日

7月・8月に鑑賞した展覧会

 7~8月は仕事が忙しかったのと東京都の感染爆発の影響で、美術館めぐりもあまりできませんでした。2ヶ月まとめて振り返ります。

特別展「聖徳太子と法隆寺」(東京国立博物館)
『日出処の天子』で予習しておいた展覧会。こちらは聖徳太子にまつわる品々や像、法隆寺の宝物などの展示で、正直あまり「王子感」はありませんが、勉強になりました。


特別企画 「イスラーム王朝とムスリムの世界」(東京国立博物館)
上記の聖徳太子展と同じ日に、東洋館の地下で見てきました。イスラームと一口に言っても時代・地域ともに広すぎるのですが、その守備範囲の広さを感じさせる展示でした。

「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」 (東京国立博物館)
東博が続きます!奈良県・聖林寺の国宝「十一面観音菩薩立像」の貴重な東京出張でした。平成館の特別展に慣れていると、本館の特別室は小さく感じますね(汗

「ざわつく日本美術」(サントリー美術館)
最初にチラシを見た時「なんだコレは!?」と度肝を抜かれました。普段は見えないような能面の裏、掛け軸に仕立てられた《三十六歌仙》が絵巻だった時代の姿の再現、箱と蓋を別々に展示するなど、面白い仕掛けがたくさん。


2021年10月25日月曜日

「イスラエル博物館蔵 印象派・光の系譜」展 ブロガー内覧会

 三菱一号館美術館で開催中の「イスラエル博物館蔵 印象派・光の系譜」展のブロガー内覧会に参加させていただきました。主催者・運営者の皆様ありがとうございました!

内覧会は本当に久しぶりで、コロナ以降は初めてです。以前は担当学芸員さんの周りに集まって解説や見どころを聞くというスタイルが一般的でしたが、このご時世なのでギャラリートークは距離を取ってインカムで聞くスタイルになったようです。ようです、というのはインカムの使用を申し込み時にチェックしなければいけなかった(希望者多数の場合は抽選)らしいのですが、その点を見落としていたみたい。そんなわけで、今回は作品鑑賞のみになりました。

以下、展示コースに沿って内容をご紹介します。掲載している写真は、特別に許可を得て撮影したものです。


今回の展覧会に作品を提供しているイスラエル博物館は、1965年にエルサレムに開館された博物館で、死海文書で有名ですが、絵画作品も多数所蔵しています。2018年に開催された「ミラクルエッシャー展」の作品もここのコレクションでしたね。

今回は印象派を中心に、バルビゾン派からポスト印象派あたりまでの作品を展示。タイトルに「光の系譜」とあるように、光の表現に注目させるラインナップになっています。


1. 水の風景と反映

最初の部屋にはコローやドービニーの作品が並びます。コローの作品は、特徴的な霧にけぶる木々の表現が印象的。湿度高そうです。


次の部屋は時代が少し進んで印象派のモネやブーダンの作品があり、色彩がぐんと明るくなった感があります。モネの描くエトルタの奇岩もありました。

インテリアとの相性の良さも抜群!

3階の大きな部屋ではメインビジュアルになっているモネ《睡蓮の池》とご対面。1907年の作品です。モネは、この睡蓮を連作として200点以上描き続けていますが、この1907年は《睡蓮の池》の当たり年とも言われているとか。同じ構図で描いた作品が国内にも3点所蔵されており、本展にも特別展示作品として展示されています(10月現在は2点のみ)。

明るく柔らかな光を表現する作品が多い中、レッサー・ユリィの《風景》が少々異彩を放っていて印象に残りました。ユリィはドイツ出身の画家で、分離派に参加しています。

モネの連作《睡蓮》については、決定版ともいえる書籍があります。著者の安井裕雄さんはこの三菱一号館美術館で学芸員をなさっています。

2. 自然と人のいる風景

郊外の村や田園の風景。自然の広がりとともに、その中にいる人の姿も描かれています。そもそも田園というのは人の手が加わった自然の形なので、人がいるのは当然かもしれません。ゴッホ作品が2点並んでおり、赤と緑、黄と青という組み合わせの色使いが美しいです。

廊下を通って小部屋に入ると、ゴーガンの作品群に迎えられます。こぎれいに整った「ヨーロッパの田園」とは一味違うタヒチの踊りや、その後のナビ派につながるような大胆な色彩。

3. 都市の情景

農村の風景とくれば、次には都市の風景。オスマンの大改造で近代都市に生まれ変わったパリの風景が並びます。ピサロの作品が多いですね。

ここで先ほど名前の出たレッサー・ユリィが再び登場。ベルリンを描いた作品がとてもモダンで洗練されています。

フォルカー・クッチャーが書いた、大戦前のベルリンが舞台の小説を思い出しますね。

 

さて、階段で2階へ降りると、上記の特別展示作品《睡蓮》が並んでいます。現在はDIC川村記念美術館と和泉市久保惣記念美術館の作品。もうひとつ、東京富士美術館の作品は11月30日以降になるとのことなのでご注意ください。

そして次の部屋にはルドンの《グラン・ブーケ》。

4. 人物と静物

最終章は「人物と静物」で、場面は戸外から室内へ。人物画はやはりというべきかルノワールの作品が多数ありますが、個人的に印象に残ったのは、下の右端にある《花瓶にいけられた薔薇》です。ルノワールは確かに人物を好んで多く描きましたが、花や果物などの静物にもすぐれた作品が多数あります。

そして室内の日常を描いたヴュイヤールやボナールの作品など。赤い絨毯がぱっと目を引く作品があると思ったら、またしてもレッサー・ユリィでした。ユリィという画家とその作品を知ることができたというのは大きな収穫だったと思います。


「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」

  • 会期:2021年10月15日(金)~ 2022年1月16日(日)
  • 三菱一号館美術館
  • 公式サイト:https://mimt.jp/israel/

2021年10月18日月曜日

美術作品の切手リスト

絵画や彫刻などの美術作品をモチーフにした切手を一覧表にしてみました。2019年以降のものなので、大きめの郵便局(東京中央とか)に行くか、あるいは郵便局の通販を利用すれば買えるものが多いと思います。URLのリンク先(右端の列へスクロールすると見えます)は郵便局の切手紹介ページで、そこからWebショップに飛べるはず。表が見えていなければコメント等でお知らせください。

なぜこの一覧表を作ろうと思ったのかというと、どういう作品が切手になっているかとともに、それがどこに所蔵されているか、どこに行けば見られるのか(お揃いのポストカードを入手できそうか)ということを知りたいと思ったからなのです。其一の《朝顔図屏風》以外はすべて国内の美術館にあるので、コロナ禍でも比較的容易に見に行けるのではないでしょうか。

《東海道五十三次》や《冨嶽三十六景》のような揃い物は、所蔵している美術館が多いのと、ポストカードもあちこちで販売されているので所蔵館は省略しました。



2021年10月16日土曜日

Twitterの有名右派アカウントについての情報まとめ

たまには時事問題なども。

10月の始め頃からTwitterその他で話題になっている右派アカウント「dappi」氏問題。国会での質問に取り上げられてから大手メディアでも報じられるようになりましたが、ちょっと情報が混乱気味なので(私が混乱しているだけなのかもしれませんが)、ちょっと整理してみました。

現時点でこの問題に直接関連することをざっくり説明すると、

  • Twitterアカウント「dappi」が立憲民主党の小西議員の名誉を棄損
  • 小西議員は開示請求を行い、判明した企業を相手に訴訟を提起

……というところです。今北産業で書こうとしたら2行で終わってしまいました。いやー、でも確実だと思うことに絞ってみたらこうなっちゃうんですよね。その背後に誰がいるか、とか色々想像はしていますが、想像の域を出ていません。

この問題、関心も高いと思いますので、そのうち続報もあるでしょう。この手の話題に強いのはやはりBuzzFeed Newsなので、注目しておこうと思います。dappi氏の正体や背後関係も気になりますが、この件をきっかけに政治宣伝工作の仕組みに対して注目が高まっていくことを期待したいです。

 ■ BuzzFeed News


dappiとは誰か、何が問題なのか

そもそもdappiとはどういうアカウントなのか。現行のdappi2019は2019年6月に開設されましたが、これは2代目。以前はtake_off_dressというアカウントで2015年くらいから活動していたようですが、こちらは凍結、つまりアカウントはあるものの利用できない状況にされています。

ツイートの内容は主に、自民党や維新などの右派政治家を礼賛し、他の野党議員をこき下ろすというもの。それ自体は良いのですが、問題は虚偽の内容が含まれていること。国会中継の動画を切り貼りしてまったく別のやり取りに仕立てるなど、悪意あるデマ攻撃があるということが、以前から指摘されてきました(1)。本人にもフォロワーが大勢いますが、さらに著名人がリツイートすることが多く、かなり拡散力の強い存在であったといえます。dappi氏の存在は国外でも注目されていたらしく、外国の外交官も関心を持っていた(2)ようです。

1. https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/toshu-toron
2. https://twitter.com/masurakusuo/status/1447550855087943688

国会の会期中はずーっと中継に張り付いて動画を投稿。動画を編集してアップする作業の速さと手際の良さ、またツイートの時間帯が平日の9時から5時という、いわゆるビジネスアワーに集中していることから「仕事でやっているのではないか」という憶測もなされてきました。それを指摘されてから、ちょっと時間帯が広がったりしたみたいですが…。


自民党との関係

これがいちばん憶測を呼んでいますし、だからこそ慎重にならざるを得ないのですが。今のところdappiアカウントと自民党を直接結ぶ報道は(まだ)ないと思います。

dappi氏がネット接続に使っていた回線の契約者が法人(小西議員が提訴した相手企業)であることから、そこの社員がこのアカで投稿していたのではないかと思われるものの、10月16日現在この企業は何もコメントを出していませんし、どうも取材できない状況みたいです。なので、社員が就業時間中にこっそり脱皮していたという可能性もギリ残ってるんじゃないかと(どんな会社だよ)。この会社の回線を使っていたということは、テレワークではないですよね。

自民党の都連や所属議員がこの企業と取引していたことは確かで、それは政治資金収支報告書に記載されていますが、Webサイト制作を発注するといった普通のお仕事のようです。「Twitterで野党をこき下ろす活動」とか書いておいてくれればわかりやすいんですけどねぇ。

日刊ゲンダイの「新疑惑!」は、「岸田首相や甘利幹事長が代表取締役を務めていた企業」に言及していますが(3)、これは上記企業の「取引先」であって、これも間接的じゃないでしょうか。この、記事中にある「A社」がどういう企業なのかいまいちよくわかりませんが、自民党議員や都連から仕事を受注しているなら、A社とも何か取引があってもおかしくない気がします。私がよくわかっていないだけなんでしょうか。

3. https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/296085

また、自民党が選挙中にネットで対立候補のネガティブキャンペーンをやるのも事実で、これは河井克行元法相の公判で明らかになっています(4)。この「対立候補」って、河合案里さんの時は同じ自民党の溝手さんです。

4. https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=691375&comment_sub_id=0&category_id=1256

他に自民党にはネットサポーターズクラブというのもあって、とにかくネット上ではいろいろ活動しているようです。あれこれ考えあわせて、だからdappiの背景には自民党が!業務としてデマ拡散を請け負っていた!と思いたくなる気持ちもわかるのですが、点と点をつなげるのはもっと慎重になった方が良いのではないかと思います。

ちょっと相関図を描いてみました。こんな所で合ってますか?


名前を書こうと思ってたのに書き忘れた!


その他

dappi氏が「ただのネトウヨではない」と言われていた理由には、投稿時間などの他に

  • 議員だけに配布された内部資料を持っていた
  • 国会図書館分館を利用できる

という2点がありましたが、その後に出てきた指摘も含めてよくよく調べてみると、どちらも怪しい。

まず、最初の「内部資料」は、昨年1月の参議院予算委員会のものだと思いますが、これはその数時間前に社民党の福島議員が投稿しているものという指摘がありました(5)。

5. https://twitter.com/jishin_dema/status/1447055377359507461

画像をコピペして並べてみましたが、確かに。縮小しただけで同じものに見えます。

福島議員に許可を取って転載したとも思えないのですが、著作権を主張できる文書でもないと思うので、そのへんは問題ないのでしょう。

国会図書館分館の件は、数年前の首相動静の記事を短時間で揃えることができた、ということから言われているものだと思いますが、こちらも現段階では根拠不十分と言わざるを得ません。

これはモリカケ疑惑のいわゆる「愛媛文書」が出てきた時の話。2018年の5月に「加計理事長と安倍首相(当時)が2015年2月25日に面会した」とする文書が発表されましたが、その翌朝にdappi氏は当日の「首相動静」を6紙並べた画像を投稿し「どの新聞にも面会したとは書かれていない」と投稿しました(この投稿は旧アカウントで、現在は凍結されていて見ることはできません)。

で、その「主要6紙の記事」をどうやって集めたんだ!? と、皆驚きました。報道が出たのは前日の夕方で、投稿は翌日の9時50分。「6紙」の中には縮刷版のない産経新聞も含まれていたということで、「3年前の新聞の現物が保管されているのはどこだ」となったわけです。それなりに規模の大きな図書館に朝イチで行かないとできないでしょう。そこで出てきたのが国会議事堂内にある国会図書館分館(一般人は利用不可)なのですが(6)、ここを利用すればできる、ということであって、利用しなければできない、とは限らないと思うんですよねぇ。ではどうやったのか、と言われるとちょっとわからないのですが。

6. https://twitter.com/main_streamz/status/998947624542588928

個人的には一連のdappi問題の中でもこの新聞記事の調べ方が特に気になっています。どうやって調べたのかがわかれば、調べものするのに役立ちそうじゃないですか? でも、真相は案外単純なことなんじゃないかという気がしていますが…。

現在のところは以上です。


2021年10月9日土曜日

美術作品の切手

突然ですが、絵画などの美術作品の特殊・記念切手をまとめてみようと思い立ちました。最近「美術の世界シリーズ」とか、絵画切手が多いなと思って…。絵画の切手があったら、同じ柄のポストカードを買って合わせてみたいじゃないですか。展覧会に行けばグッズとしてポストカードはほぼ確実にありますし、モチーフによっては、風景印や小型印を合わせてマキシマムカード(マキシカード)も作れそうです。

マキシカードとは、ポストカードの絵の側に切手を貼って絵入りの消印を押し、それぞれ同じ柄(もしくは関連の深いモチーフ)で合わせたものです。詳しくは切手の博物館「マキシマムカード」をご覧ください。手紙の書き方コンサルタント・田丸有子さんのブログ CORDIALLY YOURS にも美しいマキシカードの写真がたくさんあります。


絵画切手といえば、10月23、24日に切手の博物館で「第18回絵画切手展」が開かれるみたいです。23日には上村松園《母子》の小型印が使用されるのですが、これは切手を持っているので、ポストカードをゲットしてマキシカード作れるかな?と考えています。《母子》は東京国立近代美術館の所蔵で、有名作品なのでポストカードもショップにありそうな気がします。

さて、まとめ作業です。まずは準備のため、絵画の切手がどの程度発行されているのか、郵便局のサイトで調べてみました。2019年から始めているのは、この年から消費税アップで料金が変わっているから。2019年の前半2つは旧料金なのでご注意ください。

出典:切手発行一覧

■2019年

  • 4/19 切手趣味週間
  • 7/30 動物シリーズ2
  • 9/20 日本芸術院創設100周年
  • 10/9 国際文通週間

■2020年

  • 3/19 美術の世界シリーズ1
  • 4/20 切手趣味週間
  • 5/8 日本の伝統・文化シリーズ3
  • 5/29 国宝シリーズ1
  • 10/9 国際文通週間
  • 10/16 美術の世界シリーズ2

■2021年

  • 1/22 自然の記録シリーズ
  • 4/20 切手趣味週間・郵便創業150年
  • 5/21 日本の伝統・文化シリーズ4
  • 6/16 国宝シリーズ2
  • 8/25 日本国際切手展2021
  • 9/8 美術の世界シリーズ3
  • 10/8 国際文通週間

こんなところかな。

問題はここからです。それぞれのシリーズに、誰の何という作品があって、どの美術館に所蔵されているかをチェックしていきますが、特に「美術の世界」が大変そう!現在Bunkamuraザ・ミュージアムでポーラ美術館のコレクション展が開催されているので、所蔵作品をチェックしてから行きたいなぁ。

作業はまだ続きますが、今回はとりあえずここまで。

2021年9月26日日曜日

2022年版手帳会議!

 少し気が早いかもしれませんが、来年の手帳をどうしよう?と悩む季節になってきました。「ほぼ日手帳」の来年版予告が8月に始まるので、例年それが合図のようになっています。新作発表イベント、昨年からはコロナ禍でオンライン中心になりましたが、やはりこの時期には気分が高揚しますね。


実は来年は、久しぶりに「ほぼ日」を使ってみたいなと思っています。NYの写真家ソール・ライターの作品を使ったカバーがあって、これがすごく印象的なのですよね……。ソール・ライター、実を言うと展覧会に行ったことはありません。美術館に「鑑賞しに行く」作品ではなく「身近に置いておきたい」存在であるというか。

現在「手帳」として主に使っているのは、ほぼ定番になった能率手帳ゴールド。これは予定を書き込むだけでなく、1年間の記録として永久保存することに決めています。

(紛らわしいですが、品番3121が標準、3111が小型版です)

持ち歩きと保存のため、場所を取らないサイズのものを使っていますが、日々の細かいタスク管理やメモ書きにはスペースが足りないので、「たくさん書き込む用」としてコクヨのキャンパスダイアリーを併用。ただしリング部分は廃棄してリヒトラブのツイストノートに入れ替えてしまいました。リングを開閉して紙を入れ替えられるので便利です。

(写真は2022年版)

ただ9か月使った感想として、マンスリー部分は要らなかったかなと思っています。外出などの予定管理はGoogleカレンダーを使うことが多いので。最近は、長期予定をGoogleカレンダー、週間予定を能率手帳、その日のタスクとメモ書きをノートで管理する方法に落ち着いています。なので、来年からは普通のノートにする予定。

予定管理と情報管理の方法もちゃんとまとめておきたいなと思っていますが……来年に向けた手帳会議、まだまだ続きます!(`・ω・´)


2021年9月19日日曜日

6月に鑑賞した展覧会

 6月に入り、休館していた美術館・博物館が再開されました。でも松濤美術館に来ていたベーコン展は結局再開されないまま閉幕。鎌倉でも始まって早々休館になっていましたよね。順序が逆だったら見られたかもしれない……と思うと本当に残念です。

ともあれ、6月も何とか週一ペースで展覧会に行くことができました。


ミネアポリス美術館 日本絵画の名品(サントリー美術館)
米国で日本美術をコレクションしている美術館というと、ボストンやメトロポリタンが有名ですが、ミネアポリス美術館は初めて知りました。雪村、狩野派から浮世絵まで幅広く収蔵されています。

マニュエル・ブルケール 20世紀パリの麗しき版画本の世界(目黒区美術館)
パリで医師をしながら版画本を何冊も出版したマニュアル・ブルケール。洗練されたユトリロやカラフルなデュフィに混じって長谷川潔の名前も。

#映える風景を探して 古代ローマから世紀末パリまで(町田市立国際版画美術館)
こちらも版画。理想化されたピクチャレスクな風景、グランドツアー時代の異国の風景、風景版画を立体的に楽しめる装置など。

アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく(福生市プチギャラリー)
アール・ブリュット展覧会。中野、福生を巡回して現在は渋谷で開催中(9/26まで)。渋谷がメイン会場で展示作品も多いのですが、感染状況が心配だったので、見れるときに見なきゃ!ということで、福生会場で鑑賞しました。


2021年8月22日日曜日

5月に鑑賞した展覧会

緊急事態宣言により、4月末頃から都内の美術館は軒並み休館になってしまいました。しかし都内の一部と近県には開館している所もあったので、感染対策に注意しつつ、空いていそうな場所と時間帯を狙って鑑賞してきました。

コレクション 4つの水紋(埼玉県立近代美術館)
新規に収蔵されたポール・シニャック、埼玉ゆかりの南画家奥原晴湖、椅子の美術館、重村三雄の立体作品とその素材、という4つのテーマを「水紋」として紹介するコレクション展。コロナ禍で作品の貸し借りが困難になっている今日この頃、美術館の「コレクション」がどのように選ばれているか、またそれらの作品を「コレクション展」としてどのように構成するかという点に注目が集まっています。

紅白梅屏風と生きとし生けるもの展(川合玉堂美術館)
東京でも青梅市にある玉堂美術館は開館していました。空気が澄んでいたので周りに人がいないのを確かめ、マスクを外して深呼吸。草木と動物の作品が心に沁みました。

鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵(太田記念美術館)
明治後半から大正期にかけて、文芸雑誌や単行本に付けられた「口絵」コレクションの展覧会。彫りも摺りも精緻なれっきとした「新版画」でありながら、口絵という添え物的な位置づけから忘れられた存在になっていました。昨年、緊急事態で中断されてしまった展覧会の再開催です。


妖艶粋美──甦る天才絵師・鰭崎英朋の世界

2021年8月7日土曜日

4月に鑑賞した展覧会

8月になってしまいましたが、2021年4月に鑑賞した展覧会を振り返ります。終了間際の駆け込みになった「筆魂」以外の3展は、すべて4月末からの緊急事態宣言に伴い会期半ばで閉幕となってしまいました。どれも良い内容だったので残念(巡回しているものもあります)。

見に行く展覧会の優先順位、以前は会期末が近いものを優先していましたが、最近はもう「いま現在いちばん見たいものを見る」方式です。

筆魂(すみだ北斎美術館)
浮世絵の先駆である岩佐又兵衛から幕末まで、肉筆作品のみを展示。

渡辺省亭(東京藝術大学)
渡辺省亭という名前を最初に見たのは、数年前にあった明治の「超絶技巧」を紹介する展覧会で、七宝焼きの原画担当としてでした。今回「日本画家」として作品をまとめて拝見し、こんなにも幅広い画題を扱っていたのかと驚きました。

コンスタブル展(三菱一号館美術館)
英国の風景画といえばターナーが有名ですが、同時代に同じく風景画家として活躍したコンスタブルも気になっていました。空と雲の表現へのこだわりがすごい。印象派より前に「完全屋外制作」に挑んでいた方でもあります。

あやしい絵展(東京国立近代美術館)
タイトルだけ見るとキワモノっぽいですが、行ってみると全然違っていて、近代日本の精神世界をさぐるような内容だと思いました。




2021年8月1日日曜日

『日出処の天子』と『聖徳太子』その2

前々回は、聖徳太子1400年遠忌展がきっかけで、山岸凉子『日出処の天子』(以下『日出処』)を久しぶりに再読しましたよということを書きました。

前回は池田理代子版『聖徳太子』(以下『太子』)とその盗作疑惑について、時系列を整理してまとめました。


文庫はコンパクトだけど現在は入手困難…

今回は『太子』の内容について少し書いておこうと思います。とは言っても、こちらの方はKindle Unlimitedに入っていた1巻しか読んでないんですよね。

  聖徳太子(1) Kindle版

で、1巻だけを読んだ感想としては正直「似てない」と思いました。厩戸王子の髪形など、作画で確かに似ている部分はあるものの、肝心のストーリーが似ていない。これは当たり前の話で、『太子』は王子誕生の場面から始まっているので、1巻の前半は『日出処』が始まる前の話なのです。後半は日羅関連の話になりますが、これも話の展開は別物です。というか似ていたら仏教史的にえらいことになってしまうでしょう😓

「あ、同じ場面あったな」と思うところは1箇所ありました。王子が戸棚を開けると大量の書物が保管されていて、周囲の人がそれを見て驚く場面。でもこれ、前回リンクした検証サイトにはなかったので(私が見落としてるのでなければ)、何か共通の元ネタがあるのかもしれません。中公文庫『日本の歴史』の2巻には「七歳のとき百済献上の経論数百巻を読破した」という(後世の作り話くさい)逸話が紹介されていますが、似たような場面が『聖徳太子絵伝』とかにあってもおかしくない気がします。

その他「類似点」として挙げられている場面は、並べてみると確かに似ていると思いますが、ストーリーの流れの中の一場面としてはそれほど似ているという印象はありませんでした。ただ『太子』版の「飛んでくる矢を粉砕する」場面、あれは確かにそれまでの流れから浮いているというか、唐突な感じがあったのは確かです。

全巻を通して読めばまた違う印象があるかもしれませんが、正直あまり読む気になれません。だって<小声>面白くないし</小声>。

何というか「学習まんが」的なのですよ。というか四天王寺の依頼で描かれたということなので、実際に「学習まんが」なのでしょう。仏教伝来に関する説明の台詞は妙に饒舌ですが、話の流れが淡々としているというか物語世界に「引き込まれる」感覚がない。

子供の頃は『ベルばら』に夢中になりましたし、『女帝エカテリーナ』も面白かったので残念ですが、この話はここまでにしたいと思います。

後は秋にサントリー美術館で開催される「日出づる処の天子」展を見るだけ!緊急事態が今後どうなるか心配ですが、無事開催されることを祈りたいと思います。


2021年7月29日木曜日

『日出処の天子』と『聖徳太子』その1

 前回、山岸凉子の『日出処の天子』について書きましたが、これについてもやはり触れておくべきかな。


聖徳太子を扱ったもうひとつの少女漫画。作者は『ベルサイユのばら』『オルフェウスの窓』などで有名な池田理代子氏です。

この作品、出版は1992年だったのですね。もっと新しい作品かと思っていました。というのは、2000年代に入ってからこの作品に関する記事を読んだ記憶があったからなのですが……。時系列で少々混乱していたので、この機会に整理しておきます。

まず、山岸凉子『日出処の天子』(以下『日出処』)は1980~84年に月刊誌『LaLa』に連載されました。

その後、四天王寺の管長から池田理代子氏に「聖徳太子の生涯を漫画化してほしい」と話をもちかけたのが1990年。池田氏はこの話を受け、1991年から94年にかけて、『聖徳太子』(以下『太子』)全7巻の単行本が出版されました(その後、99年に中央公論社で文庫化される等、複数バージョンあり)。

そして2007年に朝日新聞にインタビュー記事が載ったことがきっかけで「『日出処』のパクリではないか」と盗作の検証が始まり、検証サイトが作られ週刊誌に記事が載る騒ぎに。どうやら私が読んだのはこの時点での報道だったようです。

 検証サイト:池田理代子『聖徳太子』盗作検証Wiki

出版後10年以上も経ってから騒ぎになるって、普通はないですよね。90年代の出版当時、「人物のビジュアルが似ている」「ほぼ同じ構図の場面がある」など、ファンの間でちらほら話題にはなっていたようなのですが、その頃はまだネット時代以前。また『太子』の方は雑誌連載ではなく四天王寺の依頼による単行本での出版、という経緯もあり、読者もあまり被っていなかったのではないでしょうか。

上述インタビュー記事とは、朝日新聞5月14日夕刊に掲載された「ニッポン人脈記」ですが、その中にこういう記述があります。

「太子の顔に特定のモデルはありません」。しかし、史実にまじめに向き合った。<中略>
ところが、ある漫画家が、聖徳太子と蘇我毛人(そがのえみし)との「霊的恋愛」を描いた。「違和感をおぼえました」。池田は文献を読み、仏教学者の中村元(なかむらはじめ)らに助言をうけた。

「ある漫画家」の作品とは、どう考えても『日出処』を指しています(というかそれ以外ありませんよね)。パクっておいてこの言い方は何だと思った人も多かったようです。公式サイトの掲示板には批判的なコメントが寄せられたが、すべて問答無用で削除されたということもあったようです。

マンガ界での盗作事件といえば、ある少女漫画が『SLAM DUNK』から複数場面をトレースしたという指摘を受け、回収・絶版になったことがありましたが、それが2005年のことです。この頃にはもう、盗作疑惑があれば両者の画像を並べて「本当に似ているのか」「どの程度似ているのか」を検証するのがごく自然に行われる状況になっていました。

それが上記にまとめられた「盗作検証Wiki」です。

で、その後どうなったかというと特にどうもなっていないみたい。両者ともこの件に関しては公式なコメントを一切出していませんし、検証の方もネタが出尽くしたのか更新が止まってしまいました。

長くなったので2回に分けます。次は内容についてちょっと書いておきたいと思います。


2021年7月19日月曜日

山岸凉子『日出処の天子』

 今年は聖徳太子の1400年遠忌ということで、展覧会が2つ開催されます。そのうちのひとつ「聖徳太子と法隆寺」が、東京国立博物館で始まりました。

  聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」

というわけで、予習として中公文庫『日本の歴史』や『古事記』(もちろん現代語訳で)などを読みましたが、聖徳太子といえば外せないでしょう!というのがこれです。


若き日の聖徳太子(厩戸皇子)と蘇我毛人を中心とした物語。敏達天皇時代の末期から推古天皇即位までを描いています。

上にリンクした東博の展覧会は仏画や仏像を中心とするオーソドックスな内容ですが、秋に開催される↓こちらの方では、このマンガ作品も取り上げられるみたいです。

  聖徳太子 日出づる処の天子

この作品は、はるか昔に雑誌連載で読んでいましたが(年がバレます)、途中読んでいない時期もありました。で、今回改めて全体を通して読んでみて、やはり面白い!

(以下、少々のネタバレを含みます)

前半、蘇我と物部の争いがあり、王子と蘇我(毛人)がどんどんのしていく展開はスピード感があってワクワクしながら読み進みました。でも後半になっていくにつれ、王子の内面描写が多くなり、そうなると少々読むのが辛くなってきますね。そしてラスト、これで良かったのだろうかというモヤモヤはどうしても残ります。

前半の方は、主な視点が毛人です。毛人から見た王子は、美しく聡明ですべてを見通しているスーパーキャラ的な存在で、戦争でも政治でも状況をうまくリードしていました。しかし、そんな王子も完璧な人生を生きているわけではないということがだんだんとわかってきます。求める愛情を得られず、満たされぬ思いを抱えたあげく、文字通り地面が裂けるほどの大失恋。

刀自古(毛人の妹)の存在も印象に残ります。蘇我と物部の争いの中で暴行されたというトラウマを抱え、異母妹が殺され「争いごとでいつも女が犠牲にされる」という憤りは現代にもある戦時性暴力に直結し、古代の物語世界と現代の読者の感性をつなぐ重要な役割を持っていると思います。特に連載されていた媒体は少女漫画誌で、読者の大半は若い女性ですから。

刀自古と王子は、途中ちょっとうまく行きそうな場面もあったのですが、後日談の「馬屋古女王」を読んだ感じでは、やはりダメだったみたいですね……膳美郎女との出会いがなければどうだったでしょうか。

山岸凉子さんのインタビュー(対談だったかな?完全版7巻ではなく別の記事です)によると、布都姫(毛人の恋人)は人気がなかったそう。まぁこれは仕方ないかな……正直共感し辛いキャラでした。唯一、崇峻天皇の暗殺場面で落ち着いた様子を見せ、神宝を守りに来たところは良かったと思いますが。

脇キャラで好きなのは大姫の妹。厩戸王子との結婚を嫌がる姉の大姫に「そんなにおいやなら私と代わって下さいませな」という場面がユーモラスで面白かったですね。

「馬屋古女王」からちょうど1400年にあたる本年、東博の方は先週鑑賞してきましたが、秋の展覧会も楽しみです。


2021年7月11日日曜日

「オンライン展覧会」の可能性

東京都では昨年から緊急事態が何度も宣言され、美術館めぐりも難しい状況が続いていました。見る側としては「つまらないなぁ」程度で済んでいますが、美術館の側は大変だろうと思います。

そんな中で新しく「オンライン展覧会」という試みが始まりました。

オンラインの展覧会には、YouTubeやニコニコなどで会場の様子を動画で見せたり学芸員さんが解説したりするもの(基本的に無料)と、有料でデータを販売するものがあります。

浮世絵専門の美術館、太田記念美術館さんは有料のオンライン展覧会を note で開催しています。

 ■太田記念美術館 (note)

無料で読める記事だけでも十分面白いのですが、「オンライン展覧会」は展示作品すべての画像と解説を見ることができます。だから図録の代わりにもなりますよね。

ここで、1月に忙しくて行けなかった「和装男子」を購入しました。それで読んでみた結果、本物を見る体験の代替にはなりませんが、これはこれで「あり」だなと思っています。その理由をまとめてみました。

和装男子」(太田記念美術館)

理由1:画像と本物の落差が小さい

浮世絵は何といっても印刷物なので、もとが平面的です。油絵や彫刻作品だと、本物の持つ「生の迫力」があるし、日本画でも屏風なんかは立体感がありますよね。その点浮世絵は、実物とはもちろん違いますが、それほど差が大きくないように思います。

理由2:サイズ感が予想できる

画像や画集と本物の違いとして、サイズ感という要素も大きいと思います。実物を見て「あ、こんなに小さかったんだ」と思うことやその逆の体験、けっこうありませんか?

その点、浮世絵はサイズが割と統一されているので、「大判錦絵」というとどれくらいか、それが三連につながるとどれくらいになるか、だいたい想像がつきます。

理由3:展示空間が実感できる

これは完全に個人的な理由ですが、私はここ数年、年間パスポートを購入して皆勤賞で訪問していました。また、展示空間があまり柔軟ではなくレイアウトも基本的に毎回同じです。なので、「オンライン展覧会」に掲載されていた展示室の写真を見た瞬間、室内の様子がすごくリアルに想像できたのですね。行き慣れていない美術館だと、少々戸惑いがあったかもしれません。悪く言えばマンネリかもしれませんが、よく言えば安定しているというか「行った気になれる感」があります。

というわけで、浮世絵の「オンライン展覧会」は今後も活用したいと思います。7月12日からまた緊急事態宣言が出るとのこと。今回、美術館は休館にはならないみたいですが、状況によってはどうなるかわかりません。

感染症の一日も早い収束を願いつつ


「大吉原展」その2・展示感想編

東京藝術大学大学美術館で開催中の「大吉原展」について。開催前の炎上騒動については前回詳しく書きました。今回は展示内容についての感想です。 その前に、大事なことなので前回の注意事項を繰り返しておきます。 図録は大きくて重い。東京新聞のサイトから通販可 ひととおり見る...