2025年3月20日木曜日

映画「Black Box Diaries」をめぐる問題 その2:東京新聞は「誤報」したのか

※以下の文章は3月14日~17日にかけて書いたものです。伊藤詩織氏が東京新聞の望月記者を名誉棄損で訴えたという件(末尾に記載)は、3月18日に訴訟の取り下げが報じられました。

前回の続きで、ようやく本題に入ります。映像の許諾について、東京新聞が「誤報した」とされている問題について。結論から言うと「誤報とまでは言えない」と思います。

映画 "Black Box Diaries"(以下「BBD」)で使用されている映像について、1月14日、東京新聞のWebサイトに「伊藤詩織さん監督の映画、『性被害』語る女性の映像を許諾なく使用」という記事が掲載されました。紙面の検索では見つからないので、Webのみのようです。

東京新聞記事(修正後)

後に、この記事が伊藤氏側から抗議を受け修正されます。これが「東京新聞の誤報」として知られることになるのですが、その「誤報」の内容がどうも実際より大きく捉えられているような気がするんですよね……。

BBDの中には女性記者たちの集会を撮影した映像が使われているのですが、その中に一部、許諾の取れていないものがありました。集会で自らの性被害を語った女性がおり、最初の見出しではこの女性の映像が無許諾であったようになっていたのですが、この女性は映像使用を許諾していました。無許諾で使われたので削除してほしいと要求していたのは、別の発言者だったのです。

※以下の記述に一部事実誤認がありましたので修正しました。問題の記事を「有料記事」としていましたが、「誤報」騒動以降に無料化されたようです。誤報の検証で誤報してしまい申し訳ございません。

東京新聞の最初の見出しとリードは次のようになっていました。本文は当初有料記事だったので、1月18日 11:10に取得された魚拓は無料のリード部分までです。

伊藤詩織さん監督の映画、「性被害」語る女性の映像を許諾なく使用 非公開集会、発言者が削除求めたのに…
ジャーナリストの伊藤詩織さん(35)が監督を務め、自身の性被害を調査したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」の中で、日本の女性記者たちが性被害などを語った非公開の集会の映像が、発言者の許諾がないまま使われていたことが分かった。該当部分の削除を要求した女性は、昨年末に伊藤さんから「最新バージョンでは削除する」と伝えられた。だが、1月上旬から米パラマウントプラス(有料購読者・約7200万人)で公開された映画を確認すると、削除されていなかった。(望月衣塑子)

修正後の内容(3月13日現在)は次のとおり。太字は私が加えました。

伊藤詩織さん監督の映画、性被害めぐる集会の映像を一部許諾なく使用 非公開集会、発言者が削除求めたのに…
ジャーナリストの伊藤詩織さん(35)が監督を務め、自身の性被害を調査したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」の中で、日本の女性記者たちが性被害などを語った非公開の集会の映像が、一部の発言者の許諾がないまま使われていたことが分かった。該当部分の削除を要求した女性は、昨年末に伊藤さんから「最新バージョンでは削除する」と伝えられた。だが、1月上旬から米パラマウントプラス(有料購読者・約7200万人)で公開された映画を確認すると、削除されていなかった。(望月衣塑子)

どこがどう修正されたのでしょうか。

まず見出しの後半部分ですね。

  修正前:「性被害」語る女性の映像を許諾なく使用
  修正後:性被害めぐる集会の映像を一部許諾なく使用

リード部分は、上で太字にした「一部の」が付け加えられています。それ以外は同じですね。「無許諾で使用された」と削除を要求していた参加者がおり、削除すると伝えられたのに(少なくとも海外版では)削除されていなかったという記述も変わっていません。

性被害を語った参加者は使用を認めていたので、見出しに限っては誤りと言って良いでしょう。リードは微妙ですが「非公開の集会の映像が、発言者の許諾がないまま使われていた」というと集会の映像全体が無許諾なのかと思いますね。無許諾の映像はあったので厳密に誤りと言えるかは微妙ですが、私の印象としては「誤り」に近いグレーかな。

本文は魚拓に取れないのでどこが修正されたかわかりませんが、修正がありそうなのは次の段落だろうと思います。

他の参加者については、一部の人の正面の顔や横顔、後ろ姿でも個人を特定できる可能性が高いものもある。自身の性被害を語った女性からは許諾を得ていたが、映像に映ったり、発言したりしている女性らが「許諾していない」と話している。主催者は「会として今後、映像の削除を要望するかは、皆で検討する」としている。

念のためですが、上記は「修正後」の記事です。映画に登場していた参加者の中には、許諾を得ていた人とそうでない人がおり、最初の見出しではその両者が混同されていました。修正後の今は正しい記述になっており、伊藤監督自身も後に「個人が特定できないようにすべて対処」すると表明しています。

 ■伊藤詩織さんの映画修正声明に「ほっとした」 集会映像を無断で使われた女性6人が取材に応じた(東京新聞 2月25日)

この点が理解されず、記事全体がまるごと誤報だと思った方が多いようなんですよね……。特に、伊藤氏が削除を表明する前の段階では「集会の映像は許諾を取っているので問題ない。東京新聞は誤報を認めて謝罪している」と受け取った人が多かったように記憶しています。

誤解された原因はいくつかあると思います。まず、この記事が当初有料会員限定であり、本件が報じられた2月15日の段階では本文まで読んだ人が少なかったことがあるでしょう(現在は無料化されています)。

また、現在記事の末尾には次のような記載がありますが、これも改良の余地があると思います。

※2025年2月7日午後3時追記 1月14日の記事公開当初、見出しを「伊藤詩織さん監督の映画、『性被害』語る女性の映像を許諾なく使用」としていましたが、「伊藤詩織さん監督の映画、性被害めぐる集会の映像を一部許諾なく使用」と訂正しました。集会の映像中で自身の性被害について語っていた女性からは伊藤さんが映像使用の許諾を得ており、そのことが見出し上、必ずしも明確でなかったためです。本文も一部修正しています。誤解を招く表現だったことをお詫びします。
これ、訂正前と訂正後を同じ文章の中に入れてしまっているので、どこが変わっているのか視覚的にわかりづらいと思います。また、「自身の性被害について語っていた女性からは<中略>許諾を得ており」と書いていますが、許諾を得ていなかった参加者について言及がありません。記事本文を読めばわかりますが、記事全体がまるごと誤りだと思ったら、わざわざ読もうとまで思わないのではないでしょうか。「誤解を招く表現だった」という文言も、それ自体が誤解を招く表現だと思います。

以上を踏まえて、次のような訂正表記を提案します。これはどうでしょう?

※2025年2月7日午後3時追記 見出しを次のように修正しました。

修正前:伊藤詩織さん監督の映画、『性被害』語る女性の映像を許諾なく使用
修正後:伊藤詩織さん監督の映画、性被害めぐる集会の映像を一部許諾なく使用

許諾なく映像を使用されて削除を求めていたのは、性被害について語った参加者ではなく別の方でした。その点を明確化するため、本文も一部変更を加えています。不正確な表現をお詫び致します。

しかし、誤解された原因として最大のものは、やはり伊藤氏側が望月記者を名誉棄損で訴えたことと、それを報じた新聞等の記事であると思います。長くなったので今回はここまでにしますが、次回はその提訴に関する報道を取り上げます。

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