2024年3月4日月曜日

読んでから見るか、見てから読むか

……というキャッチコピーをご存じの方は同世代(またはそれ以上)ですね。昭和の時代に流行った角川映画の宣伝文句です。

小説や漫画を原作にして映像作品が作成されることはよくありますが、原作を先に読みますか?それとも(映画などの)映像を先に見ますか?

私はどちらかというと「読んでから見る」派です。「ハンガー・ゲーム」シリーズや「ソロモンの偽証」なども先に原作を読んでから映画を見ました。その方が作品世界の設定がわかっていて物語に入り込みやすい気がします。

もちろん毎回読むわけではなくて……「ロード・オブ・ザ・リング」は、映画は見たものの原作をまだ(最後まで)読めてません。「ホビット」の方は(ずいぶん昔に)読んだのですけど。

最近、漫画「セクシー田中さん」のドラマ化をめぐるトラブルがあり、原作者の芦原妃名子さんが亡くなったというニュースを聞いて、原作付き映像作品についてちょっと考えてしまいました。

といっても私はこの作品、ドラマも原作もまったく知らないので作品についての言及はありません。以降は私の好きな海外ドラマ(主に英米)についての話になります。

映画の場合は(私が見た範囲ですが)最近の傾向として原作に忠実な作品が多いように感じています。「動く挿し絵」みたいな評価もよく聞かれます。もちろん、ストーリーや人物の省略や映画独自の場面もありますし、映像化が不可能な部分(叙述トリックなど)もあるわけですが、原作の世界観やキャラクターの印象を変えるような大幅な変更はあまり記憶にありません。原作と離れすぎた場合「別作品」と認識してしまっているせいかもしれませんが……。

TVドラマの場合は話が別です。英国ドラマは原作に沿った作品も多いのですが、米国ドラマの場合は、原作ありといっても基本的に「別物」と思った方が良いと思います。

「リゾーリ&アイルズ」はテス・ジェリッツェンの小説が原作ですが、ストーリーは(全部見たわけじゃないけど)オリジナルですよね。2人のキャラも何だか別人になっています。

リゾーリ&アイルズ <コンプリート・シリーズ>(28枚組)
リゾーリ&アイルズ コンプリート・シリーズ

「デクスター」は、シーズン1だけはジェフ・リンジーのシリーズ1作目『デクスター 幼き者への挽歌』に基づいていますが、ドラマオリジナルの要素がかなり追加されていますし、シーズン2以降はまったく別のストーリーが展開されています。

デクスター シーズン1 コンプリートBOX
デクスター シーズン1

「ボーンズ―骨は語る」に至っては、キャシー・ライクスの原作とは、主人公の名前と職業を除いて完全に別物になってしまっています。ストーリーはもちろん、主人公の生い立ちも勤務先も同僚たちもまったく違います。

BONES —骨は語る— コンプリートDVD-BOX
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原作者はこれでOKなのか?と疑問に思うぐらいの改変ぶりなのですが、ライクス氏は作中にカメオ出演しているくらいですから、OKなのでしょうね。原作との違いが原因でトラブルになったという話はちょっと記憶にありません。やはり最初にきちんと契約を交わして了解を取っているのでしょう。米国では作家がエージェントと契約するのが一般的だそうですから、そのへんはエージェントが作家の意見を聞いて交渉するのだろうと思います。

冒頭に挙げた記事では、ドラマ化の条件などを契約書にしてはいないと書かれていて驚きました。そんな状況で意見の相違があれば、組織力のない個人(原作者)が結局黙らされてしまいそうですし、意見を通すにも負担が大きすぎるのではないでしょうか。今回の件、具体的にどういう経緯があったのかわかりませんが、いずれにしても契約書を交わさないといった慣行は改められるべきだと思います。

海外でも全員がOKというわけではありません。10年以上前ですが「リーバス警部」シリーズの原作者イアン・ランキン氏がドラマ化の権利を買い戻したというニュースがありました。このシリーズはジョン・ハナー、ケン・ストットの主演でドラマ化されているので、原作者のもとで新しいシリーズが始まるのか?と思ったら、どうやら「映像化を阻止する」ための権利取得だったようで……長編1冊のストーリーを45分の枠に押し込め、いろいろ端折られているのが不満だったみたい。

(……と思ったら!今確認のために「リーバス警部」のWikipedia記事を見たら、Viaplayというストリーミングサービス会社が新シリーズを制作するという記述がありました。2022年の発表ということは、もう配信されているの?)

小説とドラマの違いで最初に思い浮かぶのは、やはりこの「ストーリー省略問題」ですね。時間の尺が違うので原作の内容を1回に収めるのは無理でしょう。

じゃあ1冊の内容をまるまる1シーズンにすれば良いかというと、それでは逆に時間が余ってしまう。「デクスター」のシーズン1は、おおまかな流れは原作の『デクスター 幼き者への挽歌』に沿っていましたが、ドラマ独自のストーリーがいろいろ追加されていて、時間配分でいうと独自ストーリーの方が多いと思います。

単行本1冊の内容を再現するには、最低でも2時間ドラマ枠が必要だし、理想としては3~6回のミニシリーズが良いのではないかと思います。短編なら1時間ドラマでも大丈夫だと思いますが、でも「リーバス警部」シリーズも含めて人気のシリーズほど長くなる(本が分厚くなる)傾向ありますよね。

時間の尺以外にも、本とTVではオーディエンスが違います。TVシリーズは原作のファンだけが見るとは限らないわけですし、表現として許される範囲(エログロ描写とか)も異なります(これはTVといってもネットワーク局とケーブル局では違うしネット配信ドラマではどうなのでしょうね?)。

原作の書かれた頃との時代の違いもあります。「ハンニバル」シリーズは1980年代に書かれたトマス・ハリスの原作に基づいていますが舞台は現代です。レクター博士も普通にスマホを使っていますし、何より登場人物の人種や性別がずっと多様性に富んだものになっています。ハリスの小説は複数回映画化されていますが、昔の作品では主要人物がみな白人男性であり時代を感じます。


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英国ドラマの「ヴァランダー」シリーズは原作小説の再現度が高かったと思います(全部読んだわけではないのですが)。ただ、原作と順番が入れ替わっているので、主人公の言動の理由が変わっていたりして、比べてみると違和感はあるかなーという感じ。気になる人は気になるかも。これ、ドラマは英国の制作で英国人俳優が出演しているのですが、原作はスウェーデンの小説なのです。たしかスウェーデン本国でも複数の映像作品があり、原作とはかなり「別物」になっているバージョンもあったように記憶しています。


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そうそう、TV版の印象が変わってしまう事情として「俳優の降板」がありました。英国ドラマ「ワイヤー・イン・ザ・ブラッド」の主役は心理学者のトニー・ヒルと警部のキャロル・ジョーダンのコンビなのですが、TV版はキャロル役が降板して新しいパートナー、アレックス(ドラマ版のオリジナルキャラ)が登場しています。こういう時、役者だけ変わって役柄は同じということも多いのですが(ホームズとワトスンとかは変えられませんもんね)、この作品ではキャラクターごと交替して、キャロル時代からの変化も面白さになっています。ヴァル・マクダーミドの原作では、ずっとキャロルが活躍中。このシリーズは、原作に基づく話とドラマオリジナル話の両方があります。

こうやって書き出してみると、まだ全部見ていない、原作も読めていないという作品がけっこうあります。ストリーミングで見られる作品もあるので、ちゃんと見ておかなければ!という気持ちになりました。

いや、それとも先に原作を読むべきでしょうか?

ドラマの場合は別物なのでどっちでもいいです!


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