2023年2月22日水曜日

がまくら市事件

前回は、道尾秀介著『いけない』の感想を書きました。で、この本についていろいろ検索するうちに、1章の成立過程がわかりました。

1章「弓投げの崖を見てはいけない」(以下「弓投げ」)は、2010年に出版された『蝦蟇倉市事件<1>』という短編集に収録されています。<1>があるからには<2>があるわけですが、この2冊は現在文庫化され、下記のように改題されています。


成立の経緯は以下のリンク先に詳しいのですが、簡単に言うと架空の街を作り上げて、その同じ街を舞台にして若手作家が競作するアンソロジー。ここで最初に原稿を書き上げたのが道尾氏の「弓投げ」であり、そこで土台のできた「蝦蟇倉市」に他の作家さんたちがあれこれ話し合って構想をふくらませ、作品集が成立したというわけです。

 ■ 11人の作家が描く架空の街の謎物語 競作アンソロジー『蝦蟇倉(がまくら)市事件』[2010年1月・2月刊行]

そしてそれから十年以上経って、「弓投げ」を一部改稿して新たに構築されたのが『いけない』です。

……という経緯のせいでしょうか。この「弓投げ」、アンソロジーの一部として読むと何だか場違いな感じがあります。この話だけ街の雰囲気が違うような。「弓投げ」以外の作品は、ライトな感じで謎解き中心のミステリが多かったような印象です。この蝦蟇倉市、年間に十何件も不可能犯罪が起きたり、警察に不可能犯罪専門の部署があったり、ぶっとんだ市長がいたりするという街なのですが、「弓投げ」にはそういう雰囲気が感じられないのですよね。書かれた時には、そんな設定はなかったんだから当然かもしれませんが。

それとも『いけない』を先に読んでしまったせいでしょうか?

いずれにしても「弓投げ」はこちらではなく『いけない』の1章としてあるのが正しいように思われました。

以下、少々ネタバレが入りますので前回同様に画像を入れます。



2作目「浜田青年ホントスカ」には「弓投げ」を踏まえた部分があります。何でも相談所みたいなことをやっている人物が登場するのですが、どうやらこの人、「弓投げ」で安見邦夫が人を殺すのを手伝ったらしい。

やっぱりそこはツッコミどころだったか! という感じですよね。重傷を負い失明してまだ3ヶ月の安見が、ケンカの強そうな若者を一撃で……というのは無理があるでしょう。まぁ、それもある意味「不可能犯罪」と言えなくもないですが。

もうひとつ「弓投げ」関連として「大黒天」に隈島さんが登場するところも気になります。しかも「浜田青年~」の記述と合わせると、時系列的には「弓投げ」よりも後の話???

ということは、こちらの蝦蟇倉市で車にはねられたのは誰?

そう思って、こちらの「弓投げ」を『いけない』版と見比べてみると、どうやら隈島と森野のたどったルートが逆になっているようです。囃子台の進行方向も南北が逆。ということは、車にぶつかったのも???

あるいは、車にぶつかったと思ったけれど実は軽く接触しただけで無事だったのでしょうか(こちらでは「死んだ」とは名言されていない)。

だとしたらもうひとつの疑問点、邦夫と弓子が2人だけで遺体を遺棄することができたのか? という点にも「隈島がこっそり手を貸した」という真相が隠れているんじゃないかと、ひとりで妄想してしまいました。

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