『宗教右派とフェミニズム』を読んだので、その感想です。前回話題にしたYouTubeチャンネル「ポリタスTV」の動画を書籍化(大幅加筆あり)したという本。
『宗教右派とフェミニズム』(Amazon) |
この本の元になった動画は以下の2本です。2022年に安倍元総理が銃撃されて亡くなった後、統一教会との関連が取り沙汰されたことを踏まえて配信されました。現在はメンバー限定公開になっていると思います。
ただし、この本を読んだ直接のきっかけは上記の動画ではなく、北原みのりさんのnote記事を読んだこと。
女を叱りつける世界から離れ、自由に語り合うために (2025年5月16日)
上掲の記事には、北原氏が「キャンセルカルチャー」の対象にされたことがいろいろ書かれていますが、その中で『宗教右派とフェミニズム』で北原氏の発言が名指しされ「右派の主張とさほど変わらない」と評されたことが取り上げられています。北原みのり氏といえば、フェミニズム関連の活動で有名な方ですし、宗教右派とは主張が真っ向から対立するはずなのに……?
以前北原氏が知り合いに誘われて書店に行ったところ、そのお知り合いの方が選書した本(書店でよくある「〇〇フェア」みたいなものだと思います)の中に上掲書が入っており、冗談めかしてそのことを指摘したところ、その方が動転して「実はパラパラとしか読んでいない」と明かした――ということでした。
選書した方が「パラパラとしか」読んでいないというのは本当だろうと思いました。というか、本自体読んでいなくても驚きません。
そのフェアがあったのは「数年前」とあるので少なくとも1年以上は経っていると思いますが、『宗教右派とフェミニズム』は出版されてからまだ2年も経っていません。選書した時点では本が出たばかりで、詳細に読む時間はなかったのでは?おそらくポリタスTVの動画をご覧になっていて「あの動画の書籍版なら」ということで選書されたのではないでしょうか。だとしたら驚かれたでしょうね。動画には北原氏批判はなかったと思うので。
ただ、北原氏の記事中で「ちなみに私がしたポストは以下だ」として引用された「千田有紀さんへの攻撃は異常だった」というX/Twitterのポストについては、「え、本当にこのポストのこと?」と疑問に思いました。それがポストされたのは2023年の6月、つまり本が出る2ヶ月前なのです。本に載せるには間に合わないのでは?批判されたのはもっと前の別の投稿ではないのか――と疑問に思いました。
その点が気になったので、この機会にと思って本を読んでみました。
結論からいうと、北原氏の記述は正しかった。「右派の主張とさほど変わらない」と評されたのは、確かに6月11日の「千田有紀さんへの攻撃は異常だった」というXのポストのことでした(URLを確認しました)。
https://x.com/minorikitahara/status/1667768778292350976
マジかーー!
このポストが書籍でどう書かれているかというと、
フェミニストの作家である北原みのりは千田の意見への批判は「キャンセルカルチャー」だとして千田への賛同を打ち出している(https://twitter.com/minorikitahara/status/1667768778292350976 [二〇二三年七月一〇日アクセス])。(p.173)
となっています。7月10日って、twitterがXに替わる直前ですね。
で、本が出たのは8月18日ですよ。上に引用した記述の少し後には「二三年七月二十四日現在」という記述があり(p.174)、日付としてはこれが一番後だと思います。レイアウト・印刷・製本に必要な時間を考えると、ものすごくタイトなスケジュールじゃないですか?
この記述は「第2部 安倍政権以後」の「性的マイノリティの権利と右派運動」という章の中にあるのですが、実際にこの章はかなり大幅に加筆し、最後の最後まで新しい情報を盛り込み続けたということです。本が出る時に「ポリタスTV」でも番組が組まれており、そこでそういう話が出ていました。
そういう事情もあってか、この章、特に最後の「トランスジェンダー差別の激化」は、ちょっと筆が走り過ぎていて説明不足だと感じられました。人名が多数挙げられている割に説明がありません。もうひとつ例を挙げると174ページ。
さらに「WAN」が二〇二〇年八月に掲載した石上卯乃名義の「トランスジェンダーを排除しているわけではない」という記事がトランス差別的だとして批判を浴び、それを掲載したWANの立場も問われたことについて、<後略>
とありますが、「トランスジェンダーを排除しているわけではない」というタイトルだけでは、何がトランス差別なのか、さっぱりわかりません。排除しないのが差別???
ただ文章全体からフェミニズム界隈への憤りは伝わってきました。上に挙げた動画の中でも、トランスジェンダーに対するフェミニストの反応が、右派からのバックラッシュよりよほど腹に据えかねている感じで、語気が強かったのが印象に残っています。
それから2年経って今の状況はどうかというと、もはや隔世の感。というぐらい、LGBTQ+をめぐる状況は大きく変わっているので、最新情報の追加を最優先させたことが正しかったかどうかは、今思うと少々疑問なのですが。
私はどちらかというと、時間をかけて丁寧に編集した、完成度の高い本を読みたい派です。
読んだきっかけが北原みのり氏のnote記事だったので、第2部のLGBTQ+関連部分のことばかり書いてしまいましたが、個人的には第1部の歴史的経緯や第2部の「歴史戦」関連部分が良かったと思います。「歴史戦」については、映画「主戦場」も面白かったので、もう少し勉強してみたいところです。
ただ、個別の項目の独立性が高くて、相互の関連が素人にはピンと来ない。その当時の社会情勢や政治状況とからめた大きな流れをつかみ切れなかった感があります。用語集や「登場人物一覧」もほしいところですが、ボリュームが大きくなりすぎますかね。
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